「秘めない私」が配信リリース
ゲスの極み乙女が配信リリースした新曲「秘めない私」は、ドライブ感のある休日課長[Ba.]の低音に、ほな・いこか[Dr.]と川谷絵音[Gt.Vo.]がツインヴォーカルが乗ってくる曲で、いつも以上にがっつりと女声が入っている。ピアノのフレーズや、多様なシンセ使い、打ち込みのビートにはエレクトロニカ的な色彩も感じられる。これは紛れもなく電子音楽だ。
バンドサウンドから距離を置く?
世界的にバンド音楽は下火である。唯一HIPHOP/EDM勢と戦えている中堅ロックバンドであるImagine Dragonsは、既にバンドサウンドからかけ離れた領域に自分たちの居場所を見つけた。
この流れに日本は、そしてゲスの極み乙女。は追随していくのか。バンド音楽が拡張し、新たな表現が生まれていくならそれはそれで歓迎だが、バンドの良さも知っている身としてはいささか寂しいものがある。彼らは5か月前にも電子音楽的なアプローチの配信シングルをリリースしていた。
ゲス乙女の電子音楽的アプローチ
MVが良すぎてビックリするのだが、リズムを聴いて見ればまさかのトラップ(※)である。明らかにアメリカのシーンなどを意識して、新境地に向かおうとしている。「秘めない私」「ドグマン」は共にトラックメイカーのPARKGOLFが参加しており、その道のプロに協力を仰いでいることがわかる。川谷絵音はバンドサウンドの殻に閉じ込められてしまうような人ではないのかもしれない。
しかし川谷絵音はこうも言っている。
NUMBER GIRL再結成について
たった3年半で邦ロックの常識を塗り替えてしまった伝説のバンド・NUMBER GIRL、その再結成について川谷絵音は次のコメントを述べている。
川谷:こんなにギターが鳴っていない今の音楽シーンにナンバガ(NUMBER GIRL)が復活することは何を意味するか。オルタナ復興、最強のオルタナティブバンドが今のシーンを変えると思っています。
引用:j-wave.co.jp
これはバンド音楽を愛していないと出てこない発言である。彼は実際にバンドサウンドの復興を願っている。
関ジャムでの一幕
4/28日に全国放送された音楽番組・関ジャムで、川谷絵音が番組内でやりたい企画をプレゼンテーションした。そこで彼が紹介したのは6組のポストロックバンド[※]だった。
彼が紹介したバンドの一つ。恐らく1000人に1人にしか刺さらないだろう。しかし世界的に注目度の高い、日本の誇りと言ってもいいバンドである。バンド音楽が好きであり、その復興を願っていなければ、ポストロックを地上波で紹介するなんてことは、しないはずだ。
NUMBER GIRLの音使いに近づくゲス乙女
例えばこの「イメージセンリャク」は、NUMBER GIRLへのリスペクトを感じるショートディレイの効いたギターサウンドが特徴的である。川谷はバンドサウンドを愛している。
だからこそポストロック界隈注目のギタリスト・ichikaと、ichikoroというバンドを組み、新しいバンドサウンドを模索しているのだ。ではなぜ「秘めない私」は電子音楽的なアプローチが取られているのか。
「秘めない私」をもう一度
この曲はAVIOTというオーディオブランドのワイヤレスイヤホン「TE-D01g」とタイアップした楽曲である。ぜひイヤホンで聴いて見てほしい。エッジのかかったストリングスや、様々な音色を使い分けるベース、不意に挿入される再生速度を変えられた歓声など、様々な音が顔を出す。メンバー4人がそれぞれに歌を入れていることも特徴的だ。それらの音が右や左、中央など各方向に振られている。
これは作品であると同時に、サウンドテストなのである。
これだけの音の数を一曲に詰め込んだのは、まるでイヤホンへの挑戦状のようなものだ。これはイヤホンの性能を世に示すための、サウンドプロダクションなのである。それならば様々な音を分離できる電子音楽が、最も適していると言えるのではないだろうか。
もちろん曲完成後にイヤホンのタイアップが決まった可能性もある。しかしタイアップに耐えうるほどの、多種多様な音使いを志向した曲であることは、間違いないだろう。
おわりに
総括すると、川谷絵音はバンド形式の殻に収まるような人間ではない。しかし同時に彼はバンドサウンドを愛している。だからこそ当面ゲスの極み乙女。はバンドとして、その音を鳴らしていくだろう。自己の表現を追求しながら、電子音楽的なアプローチを取り入れながらも、軸はバンドにある。
それにしても今回タイアップしたイヤホン、デザインもお洒落で良さそうな感じがする。今度電気屋で試聴してみようかな。公式サイトでは「秘めない私」をバックに、川谷絵音が語り掛ける映像が流れる(今だけ?)。ファンの方はチェックしておこう。
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