アジカンGotchのラップに「生活者」としての姿を感じる

ASIAN KUNG-FU GENERATIONや、ヴォーカル・後藤正文のソロ活動には、ラップが入っている楽曲があることをご存じだろうか?その独特の表現を通じて、彼が何を表そうとしているのか迫っていきたい。
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新世紀のラブソング

囁くような低音がゴッチこと後藤正文のラップの特徴だ。霧がかかったような逆再生、ループする伴奏はゴッチの言葉にリスナーの意識を集中させる。そして前半のループが、後半の劇的な展開を活きさせる。

劇的な展開である。もちろん後半の「アジカン」らしい展開も素晴らしいが、都市に住まう冷め切った生活者の心情を、寒色が似合うAメロで滔々と語るというアイデアが、この曲の特筆すべき点だ。

叫ぶわけでもなく、歌うわけでもなく、語ることでその心情を伝えるゴッチ独特のラップ。他のアーティストとのコラボ楽曲でも、そのスキルが活かされている。

環状線は僕らをのせて

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのサポートを行っているsimoryoのバンド・the chef cooks me。上記の「新世紀のラブソング」を意識しながら、編曲・作詞にもゴッチを迎えた1曲。岩崎愛やHUSKING BEEの磯部正文がヴォーカルとしてゲスト参加している。

ここにもやはり、都市の生活者としての心情が歌われる。都市に住まう人々をつなぐのが環状線だとすれば、僕らは電車の座席に収まるとき、その行きつく先にいる人のことを考えずにはいられない。

Stay Inside feat. Ovall

日本人離れしたブラックミュージックを作り上げてきたプロデューサー集団・Ovallとのコラボ楽曲。コロナウイルスの情勢を踏まえ自宅で撮影されたMVで、リラックスして披露された暖かい低音は、ゴッチ流の「うちで踊ろう」といったところか。ミニマルさの中にグルーヴが溶け込む演奏、素晴らしい。

音符の港 feat. Gotch

京都でエレクトロニカを表現するTHE BED ROOM TAPEとのコラボ楽曲。キーボードとしてゲスの極み乙女。ちゃんMARIが参加。あらゆる音がリズムだけを構成しており、メロディーはゴッチの歌とラップだけに託されている。ミニマルにそぎ落とされた音の美しい配列を邪魔せず、共存する低音の心地よさを聴いてほしい。

ここまで見てきた後藤正文のラップの原点と思われるのが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONによるBECK「Loser」のカバーだ。

Loser

1994年にリリース、ブルースとラップの融合

BECKはやる気のないスペイン語交じりのラップと「俺は負け犬(loser)さ、殺しちまえよ」と語る衝撃的な歌詞で、オルタナティブ・ロックの持つ自虐性を作り上げた。

BECKの「Loser」を、原曲をリスペクトしながらも彼らなりに解釈したこのカバーでは、ラップ部分の歌詞を日本語に置き換えている。「新世紀のラブソング」で自分自身をちっぽけな存在のように語る自虐性は、BECKや他のオルタナティブ・ロックの先人たちから与えられたものなのだろう

おわりに

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのMVや、後藤正文のソロ名義・Gotchとしての映像の中には、背景に街並みが使われている作品もある。かつてゴッチが敬愛するNUMBER GIRLの向井秀徳が「冷凍都市」と表現した都会と、そこに住まう人々のリアルな心情は、彼の自虐的なラップによって音楽に昇華されてきた。

かすれるような低い声は、都市の人々が発せずにいる言葉を表しているようで。耳をすまさなければ聴き逃してしまうような言葉にこそ、本音が込められているのが、人間関係の難しいところだ。大きい声では言えない本音を、ゴッチはラップで伝えているように聞こえるのだ。

人気バンドを率いるスターとしての後藤正文ではなく、1人の人間としての彼の姿を感じさせてくれる。だから私はゴッチのラップが好きだ。それでは。

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