フルートが入った曲は春っぽいし夏っぽいし秋っぽいし冬っぽい

万能管楽器、フルートが入ったオススメ楽曲を紹介。オールシーズンで独特な雰囲気を作り出す音色とは?
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フルートの音色

フルートの乾いた音色は、独特でありながら万能だ。まずは歌ナシの曲で、フルートの響きを聴いていただきたい。これはジャズ・フルートの開拓者であるHerbie Mannのライブ映像である。フルート・ギター・ベース・パーカッションという編成で、音が分かりやすい。

サックスやトランペットなど他の管楽器に比べても、笛の中に吹き込まれる息を感じる、唯一無二の音色である。Herbie Mannの口元を見て頂ければわかるのだが、フルートは楽器本体に口を付けず、空気を細く吐き出して楽器の中に吹き入れる。だからこそ息を管から吹き入れるサックスや、唇の振動を利用するトランペットなど違い、吐息が感じられるのだ。

それではこれから、伴奏にフルートの入った歌を聴いていただこう。フルートが持つ万能さと、それによって生まれる季節感を味わっていきたい。

太陽と暮らしてきた / JYOCHO

京都の超絶技巧ポップバンド・JYOCHOから「太陽と暮らしてきた」という曲。マスロック的なアプローチ(※)でありながら、フルートの音色が土臭いフォークロアの香りを生み出している。きらめく柔らかな陽光とその下で育まれる命。この曲はフルートによって春の曲になっている。

マスロック:マス(数学)という名の通り、複雑なリズムや曲展開が特徴の音楽ジャンル。近年はマスロックを標榜するアイドルグループがメジャーデビューするなど、再注目されている。

甲州街道はもう夏なのさ / Lantern Parade

様々な楽曲をサンプリングし、新しい曲へと生まれ変わらせてきたLantern Paradeが、大貫妙子の「くすりをたくさん」をサンプリングして作り上げた曲。涼し気なフルートの音が、汗ばむような熱気の中で日陰に逃れるあの感覚を演出する。

サンプリング元にもフルートは入っているのだが、こちらはトロピカルな楽曲である。センス次第で同じフルートのメロディによって、違った効果を与えられるのだ。

Heavy Weather Flamingo / bonobos

ダブポップからシティポップを横断するbonobosが繰り出す、美しくもパワフルな「Heavy Weather Flamingos」を聴いていただきたい。テクニカルなフレーズを奏でるフルートが作り上げるのは、夕立の情景か。むせかえる雨上がりの湿度を、フラミンゴへと例えられる夕景が爽やかに塗り替えていく。

聴きなれない攻めた音色&リズムが続く攻めた曲でありながら、お洒落な音楽でもあるというバランス感覚。元くるりのドラマーである田中佑司が楽器を転向し、bonobosでキーボードを務めていることが、この強いグルーヴ感の隠し味なのである。打楽器的なアプローチへ理解があるキーボード奏者は、打楽器としての鍵盤楽器の持ち味を最大限まで引き出す。

Summer Soul / cero

夏の夜を響かせる「Summer Soul」は、ブラックミュージックをポップスへ落とし込むceroの楽曲。Vo.髙城晶平の奏でるフルートは、夏の夜に半袖で散歩する時の、どこかセンチメンタルな空気の肌触りを表現しているようだ。

幻惑的な世界観で空想の情景を生み出し、希望の見えない都市生活の逃げ場となってきたceroの楽曲群において、柔らかいフルートの音色はアーバンで洒脱な表現をこなしてきた。先ほどの「太陽と暮らしてきた」とは真逆の効果を付けている。

せぷてんばぁ / クレイジーケンバンド

昭和歌謡の要素を様々なジャンルと組み合わせ、独自の表現を追求してきたクレイジーケンバンドから、失恋ソングの名曲「せぷてんばぁ」を聴いていただきたい。タイトル通り残暑の9月を感じさせる楽曲で、涼しげな海風をフルートが演出している。敗れた恋の帰結が「会社を休む」なところに、Vo.横山剣が書く詞の素朴な良さがにじみ出る。

クラシック・ギターと鉄琴がフルートと組み合わさることで、浮かび上がってくる肌寒い鎌倉の海。フルートは夏の終わりを表現する。

港の見える街 / Orangeade

楽曲発表前からマニアの間で話題になっていた新進気鋭のポップバンド・Orangeade(オレンジエイド)。「せぷてんばぁ」と同じく、フルートによって海辺の町を表現する楽曲である。重層的に組み合わされるフルートとギターのメロディに、多数の管楽器による伴奏が加わっている凝った楽曲だ。このようにフルートがメインの旋律を奏でる楽曲には、涼し気な魅力が生まれる。

昨年12月に初めて彼らが世に出した音源である、1stミニアルバム。絶対に外さない1曲。

あたたかな手 / ハンバートハンバート


2000年代からフォークやカントリーの新境地を発表し続けてきた夫婦デュオ・ハンバートハンバートから「あたたかな手」。シンプルな繰り返しの伴奏の中で、アクセント的に登場するフルート(2:18~)は、霜焼けになりそうな寒さを演出する。君がいない冬の寒さを。

繰り返されてきたコード進行は終盤、4度の転調(※)を経て曲の終わりへと向かっていく。Aメロとサビが曖昧な中で行われるこの劇的な展開に、強いオリジナリティが感じられる。

転調…曲のキーが変わること。この曲では全ての音が4回あがるのでわかりやすい。

窓 / CRCK/LCKS

新進気鋭のジャズ・ミュージシャンたちが、攻めたポップスを奏でるCRCK/LCKS(クラックラックス)から「窓」という曲だ。明るい曲調とうまくいかない日常を歌う詞の不一致。その辛く苦しい感情を押し込める外面を、イントロの明るく楽し気なフルートの音色が象徴している。自分を偽りながら、毎日頑張る人のための曲だ。この管楽器は特定の季節感を排除する楽曲も作り出せる。

ブールヴァード / 吉田ヨウヘイGroup

フルート奏者池田若菜が所属していた頃の吉田ヨウヘイGroupからも一曲。やはりここでも楽曲の要になってくるのは、イントロから鳴り続けるフルートである。ジャズフルート的な洒落た表現と、弦楽器を超えた表現を模索する西田修大の奏でる、エレキ・ギターらしくない伴奏の組み合わせが面白い。青みがかった都市が浮かぶような、美しい楽曲である。

おわりに

このように様々な情景がフルートによって生み出されてきた。この不思議な温かみをもった音色の持つ可能性は、これからも僕らに新しい音楽の表現を届けてくれるに違いないのである。ぜひ皆さんにも、フルートを始めとした楽曲の各パーツに注目した聴き方を試していただきたい。好きな曲の新たな一面が見つかるはずだ。それでは。

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