『ONE!』は前半と後半に分かれている
ネクライトーキーが2018年にリリースした1stアルバム『ONE!』は前半に人気曲が固まっている。
ネクライトーキーが公開しているMVの中で最も再生回数の多い「オシャレ大作戦」や、ポップな魅力の詰まった「こんがらがった!」、シュールな歌詞と中毒性の強いフレーズが特徴的な「許せ!服部」、フジファブリックとはっぴぃえんどの影響を受けた「タイフー!」といった代名詞的な楽曲が並ぶ。キャッチーなリード曲やカオスをポップに溶け込ませたような音使いの実験的な曲まで、彼女たちの特徴が詰め込まれた強打者ぞろいの前半である。
しかし『ONE!』は6曲目「がっかりされたくないな」から空気は一変し、エモーショナルさを打ち出した曲がチョイスされている。キャッチーな楽曲群とはまた違ったネクライトーキーの一面へと誘導され、心を掴まれるような曲順になっている。インタビューによるとこれは意図的なものだということだ。
藤田 「オシャレ大作戦」のインパクトがどうしても強かったので、どうやってアルバムの流れを作るかをけっこう考えました。曲順は私が決めたんですけど、6曲目の「がっかりされたくないな」から一気に流れを変えたくて、あれこれ考えた結果がこの順番です。
インタビュー:音楽ナタリー
まだ前半の曲ほどは注目されていないネクライトーキーの後半6曲、少しでも多くの人に届くように、ここにレビューを書いておく。
Track.7「がっかりされたくないな」
バグパイプで演奏されていてもおかしくないようなケルト音楽風のイントロから、壮大なスケールで展開していく音像。空間を埋め尽くすような音のスケール感が、「がっかりされたくない」というパーソナルな心象を描く歌詞と対比されている。Vo.もっさがアルバムで一番「苦しそう」という、Gt.朝日が書いた歌詞は、一番になれなかった僕たち皆が共感出来るものなんじゃないかと思う。
6曲目「オシャレ大作戦」の歌詞に眠っている才能が歌われているが、そのテーマを引き継いだような7曲目「がっかりされたくないな」である。前半6曲ではポップさの中に刺さるような鋭い言葉が埋め込まれていたネクライトーキーだが、後半では曲もストレートになり、最短距離で心を掴みに来る。
Track.8「だけじゃないBABY」
カントリー調のイントロは祝祭の風情。楽しげなウォーキングベースに思わずリズムを取ってしまう1曲だが、その歌詞は端的に言えば「暗い」。最後にほんのわずかな希望が見えるが、誰かを待ち続ける「僕」の元へは、誰もやってこない曲なのである。暗い青春を送った者から、同じ気持ちの人たちへ送ったような、ネクライトーキー流の励ましソングだ。
ハヌマーンへのアンサー
世界が終わる日にNUMBER GIRL(※)を聴いているという歌詞は、恐らく朝日が敬愛するバンド・ハヌマーンの「ハイカラさんが通る」へのアンサーだろう。
NUMBER GIRLに殺人的影響を受けたハヌマーンのGt.Vo.山田亮一は、この楽曲の始まりで問いかける。世界の終わりにどんな曲を聴くかと。
誰を待っているのか
「だけじゃないBABY」は『ONE!』収録曲の中で唯一、Gt.朝日がネクライトーキーを結成する前に作った曲だ。
朝日:(中略)この曲の歌詞は“一人で、ずっとなにかを探している”みたいな歌詞で、本当にそういう気持ちだったんですよ、このバンドが始まる前は。なにもできずに、ずっと一人で悶々としている状態だったから。
引用:BARKS
この曲に歌われる世界の終わりは、売れるためのパイが少なくなっている音楽業界を例えているのかもしれない。だから最後に歌われる「明日」や「光」は、かつての「売れたい」「誰かと音楽をしたい」という願望だったわけで。メンバーに出会い、前へと進んでいる今だからこそグッとくる。
Track.9「ゆうな」
『ONE!』の後半でも異質なスローバラード「ゆうな」は、Gt.Vo.もっさが作詞作曲した楽曲だ。ネクライトーキー加入前から歌っていたというこの曲で、父への想いをストレートに歌うもっさの声には、彼女が敬愛するチャットモンチーのように多くの人へ伝わる魅力がある。彼女はきっと、本当に思ったことだけを詞にしたんだと思う。感情も乗ったLIVE版は、子にも親にも聴いてほしい。
Track.10「遠吠えのサンセット」
サビでテンポアップする楽しくてワイワイとした楽曲だが、歌詞は日常の複雑な感情を歌っている。特に友達や元カノが結婚して家庭を持っていくという部分は、当時27歳だった朝日だからこそ書けた地に足の着いた歌詞だと思う。「おしゃれ大作戦」から「ゆうな」まで、徐々にスロウになっていく展開をガラっと入れ替えた3つ目のターニングポイントとなる1 曲。
Track.11「明日にだって」
朝日が作詞作曲した「行方不明」という曲を、もっさがメロディーと詞を変えた作品。未来に向けた苦闘を歌った力強い曲に仕上がっている中で、レゲエ調に変わるCメロが自分の中に入り込んでくる。そこからの劇的な展開も素晴らしいので、フルで聴いてほしい。
Track.12「夏の雷鳴」
アルバムの最後を飾る「夏の雷鳴」は、アコースティックな立ち上がりの1曲で、彼女たちの姿をすごく近くに感じる。最初の「ゴミ出し」の歌詞から、自分の生活に寄り添われてしまう。曲の終盤の合唱は、様々なジャンルを「ネクラ」という串で突き刺し横断したやりたい放題のアルバム『ONE!』の締めにふさわしい。
おわりに
Track.12「夏の雷鳴」はTrack.1「レイニーレイニー」との相性も考えて曲順を決めてあり、何周も出来るように作っているという。前半のリード曲と違い、何度も聴いて初めて魅力が分かってくる楽曲もあったことだろう。そんな作品が、気づけばあなたの生活に無くてはならない1曲になることもある。ぜひ繰り返し味わってほしい。それでは。
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