ハヌマーンというバンド
ナンバーガールからの殺人的影響を受けながら、そのギタリストとしての技巧や練られた歌詞で多くのフォロワーを生んだハヌマーンというバンドがいる。どのレーベルにも属さず、大阪から全国区の存在となったこのバンドの影響を、ハヌマーンをリスペクトするバンドの音源と発言を通じて見ていこう。
ネクライトーキー/石風呂
石風呂Pが作詞作曲したボーカロイドの人気曲「ゆるふわ樹海ガール」。曲を聴いてもらえばわかるハヌマーン直系の影響。歌詞をよく見れば東京で暮らすOLのことを「樹海ガール」と呼んでいることが分かる。ハヌマーンの1st Mini Album「デッセンクルー」の一曲目を飾ったのは、山田亮一の造語がタイトルに付けられた「樹海都市」だったわけで。都市を樹海に例えることで、ルーツを示しているのだ。
ハヌマーンがサブスク解禁されたからゆるふわ樹海ガールの元ネタのハイカラさんが通るがめちゃくちゃに聞きまくれるよ。名曲万歳
— 朝日 (@ishi_furo) June 22, 2020
先日のハヌマーンサブスク解禁の際には、「ゆるふわ樹海ガール」が「ハイカラさんが通る」のオマージュであることを明かした。
石風呂Pこと朝日廉が手掛けるもう一つのバンド・ネクライトーキーで、「ゆるふわ樹海ガール」のセルフカバーを披露しているのだが、こちらはよりハヌマーンからの強い影響が感じられるアレンジになっている。
山田亮一の代名詞ともいうべき、ショートディレイ(※)を効かせたリードギターのフレーズを再現している。サブスクを登録されている方はぜひフルで聴いてみてほしい。
フィッシュライフ
イントロのギターによるリフにハヌマーンを感じざるを得ないフィッシュライフの「フライングレッド」。ショートディレイを効かせた音だけではなく、山田亮一本人が考えたレベルのフレーズまで作り上げている。ギターボーカルのハヤシングは某インタビューで、17歳の頃はハヌマーンしか聴いていなかったと語っている。
フィッシュライフは2018年に解散してしまったが、ハヤシングは今も鋭角なギターを鳴らし続けている。
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リーガルリリー
好きなバンドは?と質問された時にハヌマーンと即答したヴォーカル・たかはしほのかが曲を書いているリーガルリリー。心にスルっと入り込んでくる声と、グランジ由来のオルタナティブな魅力が特徴的な3ピースガールズバンドである。
さっき、電車で座っていたら、隣にかなり酔っ払って眠る少年がわたしによりかかってきて、イヤホンから音楽がかなり漏れていたので、耳をすませて聞いてみたら、ハヌマーンの幸福のしっぽだったから、素敵な枕になれるように努力した、。
— たかはしほのか (@AveMaria_10) October 19, 2017
ハヌマーンの影響が歌詞に現れているとインタビューで語っている。
ほのか:(中略)ハヌマーンというバンドに出会って、「彼自身のことを歌った曲なのにすごい聴きたくなる」という感情をはじめて抱いた。こんな自分でもそういう曲が書けるんじゃないかな、と思って。最初の頃から比べると歌詞に書くことは変わった気がします。
引用:OTOTOY
リーガルリリーと言えば、独自の言語感覚で書く歌詞も個性的なバンド。その一端をハヌマーンが担っているのだ。また彼女たちのノイジーなギターソロにも、山田亮一の面影を感じる時がある。
yonige
リーガルリリーのたかはしほのかとの対談で共通して好きなバンドとしてハヌマーンを挙げたのが、yonigeのギターボーカル・牛丸ありさだ。この「リボルバー」という楽曲はハヌマーンの「アパルトの中の恋人たち」のオマージュではないかと言われている。(ハヌマーンにも「リボルバー」という素晴らしい曲がある。)
山田亮一というとファンキーでノイジーな楽曲の印象があるかもしれないが、「アパルトの中の恋人たち」や「トラベルプランナー」、そして「幸福のしっぽ」など、聴かせる曲も(あるいは聴かせる曲こそ)素晴らしいのである。その部分をオマージュするということは、かなりの熱心なリスナーだと思われる。どちらも生活感があり、地に足の着いた質感のある素敵な曲だ。
ベランダ
京都発、次世代のインディペンデントな音楽を届けるベランダ。ハヌマーンの影響が見ぬかれたことがないと語るこのバンドのソングライター・髙島颯心のインタビューがこちら。
髙島:音楽を始める前から詩は独学で書いてたんですけど……バンドに目覚めたきっかけはハヌマーンです。ハヌマーンで「バンドってかっけえ!」ってなって。山田亮一の作詞のスタイルにはめちゃめちゃ影響受けてますね。
引用:ki-ft
どこか生活の中で生まれたことを思わせる歌詞が特徴的なベランダ(例えば「IZUMIYA」という曲があるが、これは関西でよく見かけるスーパー・イズミヤから)。その詞の一端をハヌマーンが担っていいる。
ちなみにベランダのベース・中野鈴子はマイミーンズというバンドでギターを弾いているのだが、マイミーンズのベースボーカルこそハヌマーンのベース・えりっさである。
あの頃と同じようにRickenbackerのベースを弾いている。同じものだろうか。
羊文学
オルタナティブマナーに則った楽曲でその知名度を上げている羊文学も、メンバー全員がハヌマーンを好きだという。特に初期の楽曲のジャキジャキした硬質なギターサウンドは、本人たちも無意識に受けたハヌマーンの影響を語っているほどだ。
おわりに:ハヌマーンが見せた希望
ハヌマーンという存在が与えたものはギターの音色や作詞だけではない。大阪で活動するバンド・Brian the Sunのベーシストである白山の発言を見てほしい。
白山 : 同じ箱にハヌマーンが出てて。ライブハウスが寺田町ってアメ村とか北南からちょっと外れた場所にあったんですね。そこで、どこの事務所にも所属してないバンドが売れていく様を目の前で見てたから「ここでやっても行けるんや」って希望を持てたのはハヌマーンのおかげですね。
引用:meetia
ハヌマーンはインディペンデントながら全国区のバンドへと成長していった。その姿を見ていたバンドに希望を与えたのだ。
ハンブレッダーズのヴォーカル・ムツムロ アキラもハヌマーンについてこう回想している。
ムツムロ:(中略)それまでミュージシャンというものは大きなステージで音楽をやる人で、手の届かない存在というイメージが強かった。でもハヌマーンはそうではなく、小さなライブハウスで、とてつもなくかっこいいライブをやっていたんです。(中略)こんな近くにヒーローがいたんだという衝撃で、初めて心と体が躍りだしたのを覚えています。その一夜は自分の中で革命的でしたね。
バンドの原動力に、あるいは音楽を始めるきっかけにすらなってきたハヌマーン。彼らは今もバズマザーズ・マイミーンズ・サニアラズ・GRAND FAMILY ORCHESTRAというそれぞれのバンドで活動を続けている。
ナンバーガールを追いかけたハヌマーンは、その活動を通じて多くのバンドに影響を与える存在となり、今もその遺伝子をフォロワーや各々のバンドの中に息づかせている。彼らの今の活動も、また邦楽に波を起こしていくのだろう。これからも追い続けたい。それでは。
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