【金魚草はアートだった】衝撃のアウトサイダー・ミュージックを聴く

アウトサイダー・アートという言葉をご存じだろうか。美術教育を受けていない人たちが作る作品のことで、日本だとジミー大西の絵がよく知られている。

今回はその音楽版ともいうべき、アウトサイダー・ミュージックの世界を皆さんに伝えていきたい。音楽の素人たちが作り上げた楽曲は、いったいどのようなものなのか。

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ザ・シャッグス

ギター・ギター・ドラムの謎編成に乗せられる不協和音。既存のリズムに囚われないメチャクチャなドラムに合わせて、奇妙なハーモニーがいなくなった友だちを探している。怖い。

彼女たちの名前はシャッグス。ニルヴァーナのカート・コバーンがお気に入りアルバムの5位にあげ、ゆらゆら帝国の坂本慎太郎が賛辞を贈った伝説のバンドだ。

ファミリーバンド全盛の1969年。自分の子供たちもジャクソン5のように…と考えた父は楽器を調達し、3人の娘に練習を強いた。三姉妹は厳しい父親におびえながら昼夜練習し、その上達を待たずに作曲・レコーディングまでさせられた。

シャッグスがパンク・ミュージックの先駆けと言われるようになるとは、誰も思っていなかっただろう。練習期間を経て、彼女たちの楽器の腕が上達し、多くのファンがガッカリしたという逸話が残っている。

2017年に再結成

2017年に再結成ライブが行われた際には、ミュージシャンたちが最大限の敬意を払って”My Pal Foot Foot”を再現している。実際に楽器が出来る人たちが演奏すると、拍も音程も取れない怪物ソングであることがわかる。

かなりの再現度だが、当時の彼女たちの輝きが全て表現できているわけではない。アウトサイダー・ミュージックは再現不可能な音楽なのである。

「My Pal Foot Foot」も収録された1stアルバムは1969年の作ながら、あまりの人気に再発。Philosophy of The World(=世界の哲学)という壮大なタイトルのアルバムは、ジャケ写からも名作の気配がする。ドラム担当・ヘレンの立派な体格が安定感を生んでいて良い。

ポーツマス・シンフォニア

『2001年宇宙の旅』で有名な「ツァラトゥストラはこう語った」を演奏しているオーケストラ。こんなに人数がいるのに、誰一人確信を持てていなくてすごい。溜めに溜めた最初の破裂音が笑える。

1970年にイングランドの芸術学校で結成されたオーケストラで、入団条件はなんと素人であること。楽器経験者は、これまでにしたことが無い楽器を演奏するよう定められていた。意図的に悪い演奏はせず、最善を尽くすというルールの元にライブを行っていたようだ。

上記の演奏が収録されたアルバムは、U2やデヴィッド・ボウイに演奏やプロデュース面で関わり、「Windows 95」の起動音を作詞した音楽家、ブライアン・イーノによってプロデュースされている。アウトサイダー・ミュージックの地平をクラシックに開いていった先駆者だ。

まったく楽譜の読めない楽団を率いて生み出される、偶然性の音楽。二度と再現できない面白さは、楽団員の技術が向上することで失われ、10年近く活動したのちに自然消滅した。

フローレンス・フォスター・ジェンキンス

フローレンス・フォスター・ジェンキンス(Florence Foster Jenkins, 1868年7月19日 – 1944年11月26日)は、米国のソプラノ歌手。歌唱能力が完全に欠落していたことで有名である。

引用:Wikipedia

Wikipediaにすら「歌唱能力が完全に欠落していた」と書かれるほどの衝撃を、当時のアメリカに与えた女性。彼女の歌声は大人気となり、多くのファンが付いた。しかし音感が無いために、自分の歌唱能力の無さに気づいておらず、自分を偉大な音楽家だと信じていたと言われている。

彼女の歌をして、「輪姦される七面鳥」と評したのはファッションライターのサイモン・ドゥーナン

引用:okakuro.org

こういった酷評も彼女はライバルの競争心によるものだと信じていたようだ。

映画化

ヒュー・グラント×メリル・ストリープで映画化されるほど有名な人物だ。ちなみに彼女は名家の生まれであり、しっかりと音楽教育を受けているので、実はアウトサイダー・ミュージックでは無いのだが、近いものを感じるのでリストに記しておく。

坂上弘(さかうえひろし)

1994年の正月特番の映像。自身が交通事故にあった経験を、なぜか独特のラップで表現している。バックの演奏が上手いことで、奇妙なフロウが際立つ。Wikipediaにもジャンルがヒップホップだと明記されていて面白い。

満州でトランペットを吹いていたようで、終戦後にはジャズに目覚め、日本ジャズ・トランペットの第一人者・日野皓正を指導していたこともあったそうな。ガッツリ音楽と関わってきた彼だが、交通事故がきっかけでラップに目覚め、アウトサイダーとなってしまう

メジャーデビュー

2009年に87歳でメジャーデビュー。「丸の内サディスティック」や「愛を伝えたいだとか」と同じお洒落なコード進行で、声にオートチューンがかけられた楽曲は、「交通地獄」との間に横たわる15年を思わせる。

tofubeats以降なら流行ったかもしれないお洒落さの先見性はすごいが、やはりアウトサイダー・ミュージックとしての良さは失われている。メジャーレーベルに属することの弊害を感じずにはいられない。

金魚草

MCによると素人から4か月の時点での演奏。誰もが知るMONGOL800の「小さな恋の歌」を衝撃的なアレンジで演奏している。

全ての小節の頭でシンバルを叩くドラムに、ソニック・ユース並に狂ったチューニングのギター、なぜか全ての音をタイトに切ってしまうベース。サビ前にまともになるが、すぐ元に戻ってしまう。

アウトサイダー・ミュージックに共通の特徴だが、何度も聴いているとクセになってくるし、カッコよく思えてくる。狙って出来ることではないのだ。

彼らが少しでも楽器の腕を磨いてしまったら、この演奏は生まれなかっただろう。シャッグスと同じで、発表まで誰の目にも触れてこなかったことがわかる。これは上質なオルタナティヴ・ロックだ。

キング・ユスネビッチ & ヒズ・ユスネビッチトーンズ

最悪のロックンロールバンド。酔っ払いみたいなヴォーカルやピッチの外れた管楽器もさることながら、呪詛のようなコーラスが凄まじい。最初のカウントからいきなりずれていて、彼らが根っからのアウトサイダーであることを感じさせる。

全員ちょっと落ち着いてほしいけど、謎の勢いはある。よくぞこのテイクで満足してくれた。冷静に録りなおしていたら、ここまで魅力的な曲にはならなかっただろう。

ザ・フライング・リザーズ

ビートルズやストーンズ、ブルーノ・マーズなど多くのミュージシャンがカバーした、バレット・ストロングの名曲「Money(That’s What I Want)」を、楽器を弾けないイギリスの美大生が演奏

強烈なビートは段ボールなどを叩く音を多重録音したものだそうで、アナログで妙にチープな音がクセになる。ヴォーカルはこれまで歌ってこなかった素人の女性だそう。

音楽的にはアウトサイダーだけど、美術教育は受けているという中間の存在で、カッコいいカバーだ。1979年当時に全英チャートで5位を獲得したそう

この曲を主導したザ・フライング・リザーズことディヴィッド・カニンガムは、ニューウェーブの音楽家として8年の間、同名義で音楽活動を続けていく。しかし海外サイトではone-hit wonder(一発屋)として紹介されていて悲しい。それほど「Money」のヒットが強烈だったのだろう。

おわりに

アウトサイダー・ミュージックはよくネタにされるけど、笑いも含めて魅力的な芸術だと思う。特にシャッグスはすごくて、彼女たちほど打算も何もなく自分たちを音楽で表現できた人はいないんじゃないだろうか。

そして素人たちの激しい怒りがパンク・ロックを生んだように、音楽の新しい要素はこういった地平からも生まれてくる可能性が高い。これから楽器を始めようと思っている人は、その初めの輝きが失われる前に記録しておくことをオススメする。

アウトサイダー・ミュージックがテーマのオムニバスCDもいくつか出ているが、数が少ないので興味のある人は早めに購入しておいた方がいいかもしれない。それでは。

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