『POP VIRUS』に見る星野源のポップス観

星野源待望の新アルバム『POP VIRUS』が発売。様々なポップスを描いた本作を聴いて感じたことをレビューしてみた。
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ポップスを主眼に置いたアルバム

星野源がラジオで述べている通りならば、このアルバムはポップスのアルバムということになる。つまりこのアルバムを聴けば、彼にとってポップスがどういう存在なのかが明らかになるわけだ。

まず気になったのは『POP VIRUS(ポップ・ウイルス)』と名付けられたアルバムタイトル。ウイルスとは知らぬ間にかかってしまうもので、時には爆発的に社会に広がっていく。知らぬ間に口ずさんでしまうポップスの在り方を、的確に捉えた名前だろう。

より多様になっていく音楽性

興味深いのはこれまでよりも楽曲の多様性が増していることだ。Gt.長岡亮介Ba.ハマオカモトDr.河村”カースケ”智康といういつものメンバーで、イエローミュージックを奏でるTrack.2「恋」やTrack.3「Get a Feel」とは別路線な曲がいくつもある。

Track.1「Pop Virus」は新進気鋭のビートメイカーSTUTSが登場。クラブで流れる様な、ベースミュージックの手法が用いられている。マイケル・ジャクソンを尊敬する星野源にとって、ポップスとは単に耳に残るものではなく、人を踊らせる音楽なのだ。この手法はTrack.5「Pair Dancer」Track.13「Nothing」でも試みられている。またTrack.08「KIDS」も打ち込みのビートが特徴的だが、ほぼすべての楽器を星野源担当しており、彼が自宅で作ったような手作り感があって面白い。

そしてベースミュージック的なアプローチが、これまでの音楽性と混じり合うのが、Track.11「アイデア」だ。

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ミクスチャーの実験場

J-POPはミクスチャーの実験場になってきた。ジャズやファンク、レゲエなど様々な音楽のエッセンスがポップスの枠組みに取り入れられてきたのが、僕らの音楽の歴史だ。そして「アイデア」も、星野源のこれまでとこれからをミックスした音楽だった。

新たな試みが見られるのがTrack.7「Dead Leaf」で、90年代に生まれたネオソウルの楽曲を星野源が制作し、50年代に隆盛を誇ったドゥ・ワップのコーラスを山下達郎が乗せている(※共にジャンル名)。日本にブラック・ミュージックを広めてきた二大スターの夢の競演だ。ここからも星野源にとって、ポップスとは不定形で2種類以上のジャンルが混ざった音楽だということがわかるだろう。言い換えればポップスが不定形だからこそ『POP VIRUS』は多様性に富んでいるのだ。

ベースはブラックミュージック

ただしこれまでの星野源の活動どおり、どの曲もベースはブラックミュージックになっている。特に特徴的だったのは、Track.10「サピエンス」やTrack.11「アイデア」で見られるような、徹底して作られる無音の時間だ。人を踊らせるには音符ではなく休符を、つまりは無音の瞬間を演奏しなければならない。そうして空白が生み出すうねりが、ウイルスとなって人を動かすのだ。

陰と陽の2面性

本作で”聴こえる”無音は、過剰だ。「サピエンス」の無音はただ演奏をやめているだけでなく、編集の時点で音量を0までカットしているように感じる。そしてその隙間には、どこか人の深い部分に広がる闇がのぞいているような、そんな気がする。

星野源は「アイデア」で自身の陰と陽、2つの側面を見せた。ポップスに自分の暗い側面も乗せられることに気付いて、付けられたタイトルが『POP VIRUS』だったのだ。明るい”POP”とダークな”VIRUS”の言葉のバランスがアルバムのイメージに合うと、彼はラジオで語っている。

そしてポップスは時に陰の要素を内包する。星野源2015年の曲「SUN」は、このヒットで紅白出場を果たしたほどキャッチーで楽しい音楽だ。しかしそのタイトルには孤独が刻まれている。「SUN(=太陽)」と示したのは、彼が憧れているマイケル・ジャクソンのことで、多くの人を照らしながらも、誰もそばに寄り添えないポップ・スターの孤独を表しているのだ。ポップスの持つ表面上の明るさを超え、その奥に潜む暗闇までを含めて、星野源は自分の中で「ポップスとはなんなのか」という問いの答えを用意したのだろう。

Track.13「Nothing」で自身の虚無と向き合いながら、Track.14「Hello Song」で未来への希望を語る。それほどの度量の広さがポップスにはあるのだ。そしてその広さはポップスを作る難しさでもある。

もう既に来年の年末まで予定が決まっているという星野源。着実に大スターとなりつつある彼は、マイケル・ジャクソンの生き様から学び、自身の闇を外に吐き出す方法を見つけたようだ。

それだけ予定が詰まっているのなら、当分次作の予定はないんだろう。次のリリースを待ちながら、彼の吐き出した光と闇、ポップのウイルスが世間にどんなパンデミックを起こしていくのかを眺め、自分の病状の進行を楽しんでいこうと思う。それでは。

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