後世に伝えたい邦楽ファンクの名曲

日本人にファンクは出来ない。そんな固定観念を打ち砕く、邦楽ファンク名曲集。
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リズムから生まれた音楽

ファンク、それは黒人音楽の頂だ。コードがステイし続ける16ビートを基調に、暴れるホーンセクションとギターのカッティング、ボーカルのシャウト。ここではメロディーではなく、リズムこそが王なのだ。リズム感に優れた黒人たちが、ビートから作り上げた音楽なのである。

ではファンクは黒人にしか産み出せないのか、そうではない。日本人も研究と努力を重ね、彼らのファンクネスを自分の血肉としてきたのだ。今回は日本が作り上げてきたファンクの名曲をオススメしていきたい。

ゆっくりまわっていくようだ/SUPER BUTTER DOG

エフェクトのかかったギターが特徴的な「ゆっくりまわっていくようだ」は、2008年に活動休止したファンクバンド・SUPER BUTTER DOGの作品だ。インディーズ時代の96年にリリースされたアルバム曲ながら、後にハナレグミとして世間に名を知らしめる永積タカシが、平易な言葉で詩情を描き出している。通称バタ犬と呼ばれるこのバンドには、レキシとして知られる池田貴史も所属していた。

Scandal/ORIGINAL LOVE

90年代後半に邦楽をブラックミュージック側へ動かした渋谷系というムーブメント。その代表格である田島貴男が率いたバンドが、このORIGINAL LOVEだ。日本人離れしたジャズ・ファンクに乗せられる渋いスキャット。黒人音楽に傾倒しつつも日本語主体の歌詞に、極東のファンクの可能性を感じさせられる。日本語でも節回し次第で、英語並みのリズムを産み出せるのだ。

大阪ストラット/ウルフルズ

関西弁とファンクの相性の良さを世に知らしめた曲。ウルフルズは歌の勢いも、高い演奏力も含めて、ファンクネスをはらむ楽曲が多い。その中でもこの大阪ストラットは、トータス松本が関西弁を話しているだけでファンクに聴こえるという面白味がある。なお大瀧詠一「福生ストラットPart2」のカバーであり、原曲もなかなかにファンク風味。

氷の世界/井上陽水

1973年の作ながらファンクの典型であるワンコードの進行にファンキーなリフが乗せられている。しかしハーモニカのソロからは60~70年代のフォークが持っていた雰囲気も感じられ、また後半のシャウトもファンクというよりはソウルのそれである。当時としては珍しくロンドンでレコーディングされたこの曲に、井上陽水のジャンルを越境するセンスが感じられる。

ゴロワーズを吸ったことがあるかい/ムッシュかまやつ

邦楽を見つめ続けてきた大ベテラン、ムッシュかまやつのソロ曲。ジャズマンの息子として生まれ、ブラックミュージックに深い造詣があった彼が、シングルのB面として出した曲で、演奏はアメリカの偉大なファンクバンドであるタワー・オブ・パワーによって録られた。1975年、ファンクの誕生からおよそ10年で、日本でもこのレベルの楽曲がリリースされていたという事実に驚く。

Havana Exotica/Love が大事

1990年にガールズ・ファンク・バンド、HAVANA EXOTICAがリリースしたライブ感あふれる一曲。その後のメンバーによるBuffalo Daughter(※1993年より活動している3人組バンド)の前身となったバンドだが、女性だけのファンクバンドというだけでも日本では非常に珍しいだろう。タイトなベース・ギタードラムの美味しい絡みに、民謡のような揺らぎのヴォーカルを乗せることで独自性が生まれている。彼らの1stメジャーデビューアルバムのタイトルは「踊ってばかりの国」。ちょっと良いフレーズ過ぎる。

流星のサドル/久保田利伸

日本のソウルを代表するヴォーカリスト・久保田利伸、1986年のファーストアルバムに収録されたファンキーな楽曲。誰が見てもブラックミュージックがルーツと分かる彼は、なんと大学の卒論のテーマも「アフリカの音楽」だったらしい。2018年からこの曲を振り返れば、バブル前夜の1986年らしいシンセ・サウンドが使われていることに気付く。彼はメジャーシーンに黒人音楽を、隠し味ではなく素材のまま持ち込んでいったのだ。だからこそ今、日本人は聴きなれた耳でブラックミュージックを受容できる。

ピンク・シャドウ/山下達郎

同じくブラックミュージックへの憧憬を共有する山下達郎も忘れてはいけない。様々な黒人音楽を日本で再構成し、新たな音楽を生み出してきた先駆者だ。ライブ演奏と音源の聞き分けが出来ないほどの凄腕なのも魅力。彼がいなければ邦楽ブラックミュージックの夜明けは、数年単位で遅れていただろう。

Crystal light/堂本剛

そして新たなファンクの伝道師がこの人。ジャニーズに属しながらも、ガチで音楽活動を繰り広げている堂本剛だ。ENDRECHERI(エンドリケリー)という名義で18年5月にリリースしたアルバムのタイトルは『HYBRID FUNK』、全曲がキャッチーさとは距離をおいたファンク・ミュージックだった。自分で作詞作曲した曲をミュージシャンたちとのセッションで磨き上げていく彼は、いまやお茶の間のアイドルではなく1人のファンキー・ダイナマイトなのである。新たな層をファンクに呼び込んでくれそうで、強く期待している。

ジャニーズ所属でありながらあまりテレビでも推されていないので、耳にする機会は少ないかもしれない。だからこそ騙されたと思って、能動的に聴いて見てほしい一枚だ。

空の瞳/bird

日本が生んだソウル・ディーヴァの1999年の作。タイトなベース・ドラム・パーカスの絡みに痺れる。大沢伸一によって発見され、そして彼のレーベルからメジャーデビューしたbird。「空の瞳」収録の1stアルバム『bird』は70万枚を超えで、セールスでも大成功した。実は日本一肩書きがはっきりしない男・みうらじゅんの妻なのである。

Smooth/ディスコ室町

ファンクの始祖になれないからこそ、オリジナルへの強いリスペクトを感じるのがこのバンド。京都は室町通武者小路を下がった所からやってきたファンキーでグルーヴィーな6人組、踊る!ディスコ室町だ。ファンクの始祖であるジェームス・ブラウンの影響下にあるVo.ミキクワカドの肉感的な声質、ライブ時には音楽性にマッチする高い熱量のダンス。彼はファンクを演るために生まれてきたのだ。そのファンク・ゴッドに肉薄するヴォーカルを支えるのはツインギター、二人のカッティングの絡みが熱い。

Devil’s Manner Funkaderic/Funk Discussion Brothers

日本流オルタナティブ・ロックの突然変異体がファンク界へ越境侵攻。テレキャスターが産み出す硬質なギターサウンドはNUMERGIRL向井秀徳の影響を感じさせる。2012年に解散したハヌマーンのドラムとギターボーカルが参加するこのバンドの名前は、Funk Discussion Brothers。音源は配信3曲のみながら、今も活動を続けている。
ライブ映像だけあって音質が良くないので、気になった方はこちらからどうぞ。

Don’t Move/METAFIVE

日本の音楽の面白さは、決してオリジネイターになれないがゆえのコンプレックスを、様々なジャンルを咀嚼して生み出すミクスチャーで解消していくところにあると思う。歌謡曲なんてあらゆるジャンルに精通している。しかしその邦楽の歴史の中で、オリジナルといえるものがあるとすれば、その筆頭はYMOの生み出していったテクノ音楽だろう。

このMETAFIVEは高橋幸宏(YMO)+コーネリアス+砂原良徳(ex.電気グルーヴ)+TOWA TEI+ゴンドウトモヒコ+LEO今井という、テクノ界の巨匠と新進気鋭の若者がコラボした夢のグループだ。生演奏の超絶技巧で見せられるのは、ステイし続けるコード進行や、あくまでリズムとして入れられるホーン。これこそ日本のお家芸であるミクスチャーであり、テクノの文脈で再構成されたファンクだ。コーネリアスのカッティング・ギターがファンキー。

(Ain’t Got Nobody) Just A Rambling Man/MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO

UKの老舗レーベル・JAZZMANから日本人として初めて音源をリリースしたインスト(歌無し)ファンクバンドが、MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO(マウンテン・モカ・キリマンジャロ)だ。タイトなリズムに脈々と流れる黒のグルーヴ、キャッチーなメロディーよりもあくまでリズム・リズム・リズムだ

So Fat?/Nabowa


同じくインストゥルメンタルのファンクながら、こちらは編成が特殊。ドラム+ウッドベース+ギターになんとバイオリンのジャムユニットNabowa。多くのジャンルに精通し、日本のミクスチャー感覚を突き詰めたような彼らは、ファンクの分野でもこれまでになかった一曲をリリースしている。これが日本の音楽の面白いところだ。

Juden/Kroi

圧倒的な演奏力でジャズファンクを鳴らす5人組バンド・Kroi。彼らも様々な楽曲を作るミクスチャーバンドといえるのだが、ファンキーなリズムに主軸が置かれている印象がある。上記の「Juden」がダイハツのCMに使われ、2024年1月には武道館ライブを行うという恐ろしい売れ方をしている20代。ロックやポップスではなく、ファンク主体の音楽でここまで売れていくということ。多くのバンドがたどり着けなかった地平に、彼らはたどり着いた。

おわりに

このように、日本には多種多様なファンクが花開いてきた。様々なジャンルと混じることや、原点を純粋に追い求めることで、彼らは彼らのファンクネスを表現する。それではこの先には何が待っているのだろうか。邦楽ファンクのバンドたちは、近年のミニマルに洗練されていくファンクシーンに抗っていくのか、それとも…。

50年以上前に生まれたジャンルでありながら、その生誕から遠く離れた極東の地で、ファンクは今も現在進行形であり続けているのだ。今後もその歩みを追っていくつもりだ。それでは、またお越しください。

女性ウィスパーボイス×ファンクに見る邦楽ファンクの独自進化
60年代に生まれたファンクに、シャウトではなくささやき声を合わせた曲が、日本ではいくつかリリースされてきた。ジェームス・ブラウンが予想していなかったであろうその効果や、代表的なバンドとは?

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