モンゴルHIPHOP今昔物語『モンゴリアン・ブリング』

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モンゴリアン・ブリング

HIPHOPはいつだって、社会の不公平に抵抗してきた。それはモンゴルでも変わらない。首都・ウランバートルのバラックが並び立つゲル地区。この東アジアのストリートに息づく、ヒップ・スターたちの抵抗の歴史を追ったドキュメンタリー映画が『モンゴリアン・ブリング』だ。

オーストラリア人のベンジ・ビンクスが4年以上に渡りモンゴルのラッパーたちに密着し、2012年に発表した作品で、今年ついに玉川千絵子の邦訳が付けられた。まだこの作品は日本では2回しか上映されていないため、ぜひともどこかで機会を逃さず見て頂きたい。

本作の見どころや感心ポイントを記しておく。

社会主義から民主主義へ

1989年頃に起こった民主化運動以前、モンゴルは社会主義国であった。そしてこの運動を経て、現在の民主主義に至り、西洋文化が流入する。そうしてモンゴルのHIPHOPカルチャーの種は蒔かれていった。

最初にHIPHOPをモンゴルの人々に認知させたのが、90年代前半から活動するブラック・ローズと呼ばれるグループだ。しかし『モンゴリアン・ブリング』で指摘されているように、これはHIPHOPではない。ラップが入ったテクノ・ポップあるいはユーロ・ビートと呼ばれる音楽だろう。鑑賞中、筆者はこれを日本にスライドさせずにはいられなかった。

90年代の日本ではHIPHOPユニット・スチャダラパーと、テクノユニット・電気グルーヴが流行っていた。しかし彼らの音楽性を、クラブに踊りに行っている人たちは区別できていたのか。ともにメンバーが1名ずつ呼ばれ、『ポンキッキーズ』で司会進行を務めていたことも、混乱に拍車をかけていたのでは。ラップ=ヒップホップではないというところは、新しい文化が流入してきた当時、どちらの国でも共通して広めていかなければならないところだった。

既にあるものと組み合わせ、取り入れる

劇中でブラック・ローズは、モンゴルの伝統的な歌唱法であるホーミーや、馬頭琴の音色を曲に取り入れ、人気を博したと紹介される。これも、日本で初めに認知されたプロテストソングである、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」を思い出さずにはいられない。

半ば冗談交じりで日本語ラップの始まりと言われているこの曲だが、吉幾三は渡米した先輩から送られてきたHIPHOPのレコードを聴き、着想を得たという。ある程度すでにあった歌謡曲の型を借りて作っているところなど、伝統音楽を取り入れたブラック・ローズに近い部分が見える。新しい文化は、外堀から埋められて、徐々に浸透していくのだ。

では日本とモンゴルのHIPHOPシーンで決定的に違うところは、いったいどこなのだろうか。その相違点こそ『モンゴリアン・ブリング』の見どころなのだ。

HIPHOPで政府を撃つ

HIPHOPがアメリカのゲットーで生まれ、成長していった背景には、そこに住まう人々の貧しさがあった。そしてそれは、ウランバートルのゲル地区に共有される。作中で語られていたのは、レイプや強盗が蔓延する現状。政府を撃つ武器として、ラッパーたちはライムを刻んでいた。彼らの熱はHIPHOPへの愛と、そして社会を良くしたいという想いから生み出される。『モンゴリアン・ブリング』はその熱さに迫るドキュメンタリーだ。

トルゴイに暮らし、社会批判を繰り返すGeeと、上手くスポンサーを見つけ、アンダーグラウンドから一抜けしたQuiza。そしてスラム出身の高速ラップを繰り出す女王・Ginnie。この3者それぞれが見た、モンゴルのHIPHOPシーンを丁寧に追う。

彼らの周りには幾人もの未来のラッパーがいて、まだ年端もいかない少女が、政府を直接的に批判するリリックを書いている。その光景には心を揺さぶられるものがあった。楽しみながらも切実に、彼ら/彼女らは社会を変えたいと思っている。

作中で語られている通り、民主化運動はモンゴルのポピュラー・ミュージックに支えられて完遂した。彼らは音楽の力を強く信じている。是非ともその姿を目撃してほしい。

ここからは上映を目撃させてもらった、11/16に京都UrBANGUILDで行われたイベント、「暇-itoma15th」の感想を書いておく。

フィルムから飛び出した2人のヒップスター

渋谷で一度きりの上映だったはずの『モンゴリアン・ブリング』を、15回目を迎えた関西ヒップホップ系のイベント「暇-itoma」がまさかの再上映。独自のブッキングもさることながら、映画に出演したQuizaとGennieが初来日した。

Gennieによって繰り出されるモンゴル語の高速ライミングは、言語を超越したカッコよさがあった。というか、モンゴル語だからこそカッコいい。響きが良い。そしてQuizaの持つカリスマ性。全く内容は分からないのに会場を湧かせ、躍らせる。トラックには口琴や馬頭琴らしき音が組み込まれているが、あくまでHIPHOPの範疇にあり、見事な伝統音楽との融合を果たしていた。京都は木屋町を湧かせた2人のモンゴリアン・ヒップスター。貴重な経験だ。

更に貴重だったのは、質疑応答の時間があったことだ。滋賀大学でモンゴル研究をされている島村一平先生が、なんと観客の質問をモンゴル語に訳し、回答は日本語で教えてくれる。更に解説まで加えて頂いた。あの晩、日本で最も濃い話題が交わされていた場所だったんじゃないだろうか。良い夜だった。

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こうして面白く、強烈なイベントを打っている「暇-itoma」。機会損失を避けるために、フォローしておくべし。

おわりに

社会背景によって生まれた、音楽に対する熱さ。たくさんの子供たちが、社会を変えようとストリートカルチャーに浸かっている光景は、衝撃的だった。

そしてせっかく知れたのに、Gennieの音源をどのようにしたら聴けるのかがさっぱりわからない。社会を変えるという目標もあり、自国への愛もあり、劇中の曲は全てモンゴル語でモンゴルのことを歌ったものだった。内向きに生まれ、内向きに発展してきた音楽なのだ。自分たちのことを棚に上げるのは良くないけども、国外でも聴けるようにしてほしいな。

追記:YouTubeのリンクがモンゴルから届いた

Gennieの音源が聴けないということをぼやいていると、滋賀県立大学の島村一平先生からコメントが届いた。Gennieに連絡して下さったようで、彼女から送られてきたYouTubeのリンクを教えてもらえた。

これがその中の最新の楽曲、中央の女性がGennieだ。島村先生、ありがとうございました。先生のコメントについては、このページの下部を見てほしい。たくさんの楽曲を紹介してくださっている。

コメント

  1. 島村一平 より:

    こんにちは。滋賀県立大の島村です。記事、面白く拝読いたしました。モンゴルのヒップホップを紹介していただき、ありがとうございます。
    Gennieの音源が聞けないという件、本人にに連絡したところ、ようつべのリンクを大量に送ってきてくれました。
    よかったらチェックしてみてください。最初のリンクが一番、新しい曲です。 私も初めて聞く曲がいくつかありました。では!
    https://www.youtube.com/watch?v=jziFI5T_kNc&feature=share&fbclid=IwAR1nK5TUVcjpz-GwqkWLHNS96aU8G0pd15_a3Aq0qreDn29O9o8wCyaSKwo

    https://www.youtube.com/watch?v=Gzw8EGg_ZkA&feature=share&fbclid=IwAR2e6Y1idDuNgnE6jydK2vA8H5K7d2b7HV9hU5RDWhFfq9fiDErwzZ2Yh9Q

    https://www.youtube.com/watch?v=5X9_elXWe0s&feature=share&fbclid=IwAR1JMIA0uyMjq3T35djuAR8dbniXvmx41ihaRICujd9ZaY70a9cMmnkLwf0

    https://www.youtube.com/watch?v=s-Kl7GY0bd8&feature=share&fbclid=IwAR2ZkEl4GB9gs4lVTjs0vy5deW3KX-UCcyEHGIqc6ZHam1yPXJM1vg9u3EY

    https://www.youtube.com/watch?v=HKxnJebMDmU&feature=share&fbclid=IwAR2N4j4MAf3aQlbkZYy-4x1lzXc_jUripbhn3uU1-lILFaDHVkRP-NexMN0

    https://www.youtube.com/watch?v=ghL2-nwzZH0&feature=share&fbclid=IwAR2OICVfM0GiQrhJmLnZFJ05PcJv6M5VmXN64q6tIVut9xVpPqzoHMhnsw0

    https://www.youtube.com/watch?v=P3Yd3cBL-cg&feature=share&fbclid=IwAR1nK5TUVcjpz-GwqkWLHNS96aU8G0pd15_a3Aq0qreDn29O9o8wCyaSKwo

    https://www.youtube.com/watch?v=Sch4nPAuKlM&feature=share&fbclid=IwAR2E5P2AfMSJ0ol9M_iY0BcMKxegM99BRWRU9KvxJKiq1iL6YEb4SQ_BM24

    https://www.youtube.com/watch?v=T3LYY6oiqWs&feature=share&fbclid=IwAR1Y8qILmb6r3MUssxqPWahT36YvGEAOd8AKHIaBkkVbRo_rrXwQ8Q149_k

    https://www.youtube.com/watch?v=Hjokl6aVoR4&feature=share&fbclid=IwAR3EezoFt2Brb85fioW3gHaTsSObeaTjYH5V57tnqieNjOEyibY6MQK7ZuY

    https://www.youtube.com/watch?v=5ABreQO5qrs&feature=share&fbclid=IwAR0w6G-hZRqhxmBDqUneBQf-IHLsRgcLkxiqanNK2HQc7DCKinKfxBfJoT4

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