映画『BLUE GIANT』の演奏者がヤバいので知ってほしい

アニメ映画『BLUE GIANT』でモーションキャプチャーを通じて、音と動きで出演を果たした3名のミュージシャンたち。ジャズ界を担うこれらのミュージシャンたちの経歴や活動、オススメのポイントについて語る。
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主人公 宮本大(テナーサックス)の音を鳴らす馬場智章について

主人公であるテナーサックス奏者・宮本大。そのパワフルな音量とスピード感あふれるソロ回しを表現するのが、ニューヨークを拠点に活動するサックス奏者・馬場智章だ。彼はニューヨークで活躍する日本人ジャズ奏者5名で結成された「J-Squad」への参加や、多くのミュージシャンとの共演など、幅広い音楽活動で知られている。

報道ステーションのテーマ曲への参加で知名度を上げた

報道ステーション テーマ曲J-Squad「Starting Five」

J-Squadでニュース番組「報道ステーション」のテーマ曲を演奏したことから、日本でも彼のテナーサックスのサウンドを聴いたことがある方は多いだろう。世界最高峰のジャズに関する教育機関ともいえるバークリー音楽院に在学時、3度も優秀賞を受賞した馬場。日本人ジャズマンのスーパースターたちが集ったモンスターバンド・J-Squadに最年少メンバーとして抜擢され、話題となった。

同バンドで、日本で最も有名なジャズクラブともいえるBlue Note Tokyoや畑違いのFuji Rock Festival ’17といった様々なステージを含む全国15都市ツアーを行うなど、精力的に活動しており、日本ジャズ界の未来を担う若手サックス奏者の一人だ。

ジャズの巨匠・日野皓正との共演で見せた圧倒的エネルギー

日本を代表するジャズトランペット奏者・日野皓正とも共演、ドラムは後述する石若駿

4:20~ボルテージが滑らかに上がっていく馬場智章のソロ。玉田役の石若駿がドラムを務めた上記のライブでは、スリリングに手数を増やしていくドラムやピアノと会話し、音でコミュニケーションを取りながら、最果てまで突っ走る。突っ走った先で待っているのは、ジャズの巨人・日野皓正のクレイジーなトランペットだ。ジャズ最高。石若駿あまりにもうますぎる。

ドラム・玉田役でドラムを叩いた石若駿について

主人公の同級生としてドラムを始める玉田。気迫に満ちた練習風景が印象的なこのキャラクターの音を演じるのは、日本の若手ドラマーの中でも最高峰の一人である石若駿だ。12歳の時点で上述したジャズの巨匠・日野皓正のライブにゲスト出演したという早熟の才能は、奨学生としてバークリー音楽院に留学したのち、ジャズやR&B,ロックなど様々な分野で開花した。

歌モノに合わせて超絶演奏を行うドラムのスペシャリスト

くるり、Millennium Parade、米津玄師、君島大空、中村佳穂、長谷川白紙、崎山蒼志、Kid Fresinoなど様々な分野のサポートドラムを務めながら、Songbook TrioやAnswer to Remember等のリーダープロジェクトも実行中。そんな彼が正規メンバーとして参加しているバンド・CRCK/LCKSの「No Goodbye」では、人力とは思えない複雑な密度のドラムを、歌モノの裏で成立させるという驚異的なテクニックを見せた。この超絶演奏を歌モノのバックで叩くスタイルは、後に米津玄師「感電」のCメロや、中村佳穂「さよならクレール」などでも登場する。

『坂道のアポロン』でもジャズドラマーとして出演

2022年のフジロックでは初日にくるり、Milennium Parade、Kid Fresinoの3ステージに出演したため「日本の音楽石若駿に支えられてる…!」と話題になった彼は、実は2012年にドラマーとしてアニメ出演を果たしている。ジャズを描いたアニメ「坂道のアポロン」で、音を演奏しただけでなく、モーションキャプチャーで取り込まれた石若駿の動きがそのままアニメ化されている。この作品も素晴らしいので、ぜひチェックしてもらいたい。

雪祈のピアノと作曲を務めた上原ひろみ

世界レベルで活躍している日本人ピアニストの一人である上原ひろみ。彼女が映画『BLUE GIANT』において、雪祈のピアノ演奏と作曲を務めた。ピアニストとしてグラミー賞を受賞するだけでなく、ジャズの聖地・アメリカでも権威のある全米ビルボード・ジャズ・チャートにて、リリースしたアルバムが初登場1位を獲得するなど、衝撃的な経歴を持っている。

世界レベルのミュージシャンが見せる圧倒的な熱量と独自性

彼女のピアノプレイやソングライティングで印象的なのは、超高速のアドリブ演奏を弾きこなす演奏力、立ち上がってピアノを叩く衝動的なプレイスタイル、エネルギッシュな曲展開。そして何よりも、喜怒哀楽をぶちこんだような、感情豊かな音!彼女のライブを目撃した人は、息を呑むのも忘れ、圧倒される。空間を支配してしまうほどの圧倒的な力、それが彼女のオリジナリティだと思う。

ジャズの熱さと『BLUE GIANT』と上原ひろみ

一般的にイメージされるマイルス・デイヴィス的でクールで洗練されていてお洒落なジャズからは、遠いのかもしれない。でも『BLUE GIANT』は、小料理屋のBGMで流れているモダンジャズからは伝わってこない、ジャズそのものが内包する熱さやエネルギーや泥臭さを描いた物語だと思う。だからこそ、ジャズの熱量を体現する上原ひろみがプレイヤーとしても、ソングライターとしても参加するという選択は、ベストだったのだ。

おわりに

弾かない日は無いと断言するほど、圧倒的な練習量で知られる上原ひろみ。アメリカでも認められたジャズピアニストとなっていった彼女の人生は、『BLUE GIANT』の物語と現実を接続する。彼女が馬場智章・石若駿らと鳴らした音は、作中で主人公の宮本大が語ったように、あるいは『BLUE GIANT』という作品そのものが持つ意義として、「ジャズを日常的に聴かない人々に響く音楽」として、どのように楽しまれていくのだろうか。

この記事は映画『BLUE GIANT』が公開された2023年2月17日に書かれた。『BLUE GIANT』でジャズに興味を持った方々が、更にジャズを深めていける一助となれればうれしいです。それでは。

映画の続きとして、個人的には必読の『BLUE GIANT』ヨーロッパ編。キャラクターが非常に魅力的なので、要チェック。

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