【1/15失われない音楽祭ライブレポ@梅田Shangri-La】bonobos TENSAI BAND BEYOND

2023/1/15に梅田Shangri-Laで行われた「失われない音楽祭」をライブレポート。春に解散を控えたbonobosと、2019年2月以来の4年ぶりのライブとなった天才バンド(TENSAI BAND BEYOND)の演奏を振り返る。
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暖かい冬、チケットはソールド

2023年の1月15日は少し暖かかく、秋服でも全然いけた(未来に向けた記録)。そんな日に梅田シャングリラで開催されたのが、不定期開催イベント「失われない音楽祭」。この日の演奏は、解散を目前にしたbonobosと、4年もの間ライブ活動を行っていなかったTENSAIBAND BEYOND。それぞれの演奏をレポートする。

1/15 TENSAIBAND BEYOND ライブレポート

ステージの幕が開く最中にも響くブルージーなエレキギターとスラップベース。「天才!天才!」と歌われるコーラス。交互に歌い場を盛り上げる奇妙礼太郎(Gt.Vo.)とSundayカミデ(Ba.Vo.(Key.))。TENSAI BAND IIより引き続き松浦大樹(Dr.)が、ビートを刻む。

観客の盛り上がりとは裏腹に、何でもないような顔で、4年ぶりの天才バンドがそこにいた。

次に歌われたのは奇妙礼太郎の言う『背後に忍び寄る歌』。「今日は配信が無いから何を歌っても大丈夫」と言いながらアドリブで繰り出される言葉とメロディに、思わず聴衆から漏れる笑い声。その場でSundayカミデが漏らした「棒」という言葉から即興で謳われた『棒の歌』でも、踊ったり笑ったり。

奇妙礼太郎トラベルスイング楽団で音源化された『十円の裏』では、奇妙礼太郎によるソロ回しならぬエピソードトーク回しが発生。ドラムの松浦大樹に「出身はどこ?」と曲中で聞いたり、「Sundayさんのお父さんは?」と聞いたり、即興性の強いカオスな曲展開が続く。Sundayさんのお父さんは、奥さんとの初デートが沖縄返還運動のデモ集会だったというエピソードも飛び出し、何が起こるかわからないハラハラの展開に空間が一体となった。

次にブラジルの風景を思い浮かべながら聞いてくださいといい歌い始めたラテン調の曲では、これまでとは違ったビートのアプローチで観客を躍らせた。曲中で北野武の映画『バトルロワイヤル』を見たという奇妙礼太郎。

バトルロワイヤル冒頭の有名なセリフになぞらえ「皆さんにはこれから、愛し合ってもらいます」と歌い上げ会場のボルテージはマックスに。畳みかけるように歌われたのは『バーミヤンで烏龍茶』という、2022年のフジロックでも歌われた曲。高らかに歌われる「烏龍茶」。ライブの前日にはSundayカミデと二人でサイゼリヤに行っていたという、仲良しバンドだ。

そして終盤、まだ音源化されていない『BPM』という曲が歌われる。そこで語られたのは奇妙礼太郎の10代の頃の衝撃的な恋。リズミカルに歌われた恋のストーリーは、その場限りなのか、いつか発表されるのか。最高だった。当時の彼女に歌ってくれと言われたエピソードも歌に乗せながら、曲中でMr.Childrenの『車の中でかくれてキスをしよう』を一部カバー。透明でセクシーという矛盾をはらむ不思議な歌声が、空間を満たす。『BPM』明らかにキラーチューンだ。

ラスト前のMCでは、bonobosのベース、森本夏子から「bonobosの最後のシャングリラだから天才バンドが見たいな」とDMが気て快諾したエピソードが語られた。ありがとう。

ラスト、ついに『君が誰かの彼女になりくさっても』をシンセで弾き始めるSundayカミデ、「ダンスを…」となぜか『天王寺ガール』を歌い始める奇妙礼太郎。焦るSunday、笑う奇妙。気が付けばSundayが『君が誰かの彼女になりくさっても』を歌っていた。そのまま続けて歌ったのはドラム・松浦大樹、ボーカルを務めるソロプロジェクトがあることもあり、歌がメチャクチャ上手い。その後、「誰が歌うの?」などといいながら4小節ほどお見合いになりつつ(そんなことある?)、ギターを置いてハンドマイクで歌い始める奇妙礼太郎。

彼の歌は空間を支配する力がある。

すさまじい歌声が感情を揺さぶる中、ドラムとピアノもギアを一段入れ替え、ラストに向けて一体となっていった会場。何度でも聴きたくなるこの三人の演奏は、ここで幕を閉じた。TENSAIBAND BEYONDのBEYONDとは「向こう側」を意味する単語だが、よく考えると天才バンドの曲は最後にようやく聞けたので、ほとんど「向こう側」を見せられたような感じだった。初見の曲でここまで観客の感情を揺さぶって、笑わせて、躍らせる。いいバンドが帰ってきてくれた。

1/15 bonobos ライブレポート

TENSAIBAND BEYONDでホットになったステージをbonobosが引き継ぐ。初っ端から『グッドモーニングマイユニコーン』を繰り出し、観客を彼らの世界観の中へ連れていく。オルタナティブな蔡忠浩(Vo.Gt.)のソロから、ディープなビートの『LEMONADE』へと繋がる。梅本浩亘(Dr.)と森本夏子(Ba.)を中心として複雑に重なり合う楽器陣の演奏。

スムースな小池龍平(Gt.)のギターに、レイドバックして重なる梅本のドラム。この結成22年のバンドが、ポップス~ジャズ~ヒップホップに至るまで様々な音楽を横断する彼らの、解散を間近にして突き詰められた独自性を証明しているようだった。そして2022年11月に発表されたこの曲でも引き続き歌われる「光」のイメージ。

続くキラーチューン『THANK YOU FOR THE MUSIC』では、イントロの1音目から歓声が上がっていた。その日蔡忠浩は、まさに胸に『THANK YOU FOR THE MUSIC』と書かれたTシャツを着ており、この歌が彼らにとって、あるいは僕らにとって、どれほど大切な歌で、言葉なのかを改めて感じさせられた。リアレンジされた(Nui!)verのため、梅本のバスドラム三連符のキメが印象的だった。J Dillaのようなレイドバックするビートを交えたテクニカルなドラムソロ(巧すぎ)で締め、次曲『Cruisin’ Cruisin’』へ。

シティポップ調の『Cruisin’ Cruisin’』では観客たちがそれぞれに踊っていた。その多様性こそ、最新アルバムでは英語と日本語に韓国語も織り交ぜた楽曲をリリースした彼ららしさのあるライブ空間だったように思う。

MCを挟み、浮遊感のあるビートが印象的な『Gospel In Terminal』へ。2016年に始まった新体制bonobosを代表するようなこの楽曲では、田中佑司(Key.)が高い熱量のシンセソロを披露し、会場のボルテージもマックスに。

次に演奏したのは、アンチラブソングであり、bonobosの旅路の到達点ともいえる『Not LOVE』。ロジカルなビートとグルーヴのパズルの上で、ヴォーカルエフェクトのかけられた蔡忠浩の歌声が彼らの現在地を象徴的に示した。

その後「このメンバーでやるのは初めて」と言いながら、2004年にリリースされた2ndシングル『water』を披露。トロピカルな中南米系のリズムに、TENSAIBAND BEYONDのブラジルの曲も想起しつつ、そこで歌われる詞に胸を打たれた。「Good night Baby」と歌うなんて、まるで別れの言葉だ。

最後の一曲として歌ったのは『春のもえがら』。東日本大震災の遺族の方との交流から生まれたというこの曲には、戻らない人への想いが柔らかな言葉で綴られている。このタイミングの、この曲順で、彼らがこの歌をいかに大切にしているか、すごく伝わってきた。春でも夏でもない1月に、この曲を聴けて良かった。不在がその存在を強く意識させる。

アンコールでは「おかえり矮星ちゃん」を披露。梅本浩亘のドラムがすさまじい手数とグルーヴで圧倒。ライブでやることを想定して作っていないんじゃないかと思うほどの、驚異的な難度の楽曲をアンコールに持ってきた彼ら。深い残響のかかった、蔡忠浩によるオルタナティブなギターソロで終幕。なんとも感情の揺さぶられるライブだった。

おわりに

bonobosは2022年4月に解散を発表した際、このようにコメントした。「bonobosの音楽は残り続けます。これまでと同様にbonobosの音楽が皆さまの人生の一端となれば嬉しいです。」音楽は失われないのだ。

TENSAI BANDが4年ぶりに彼らの「向こう側」を見せてくれたように、失われない音楽が、きっと僕らの未来に、いつまでもついてきてくれる。bonobosは3/3の大阪公演、3/5の東京公演を経て解散する。彼らの音楽を未来に持っていくためにも、このライブは2023年に行くべきライブの一つだと思う。2023年1月15日梅田シャングリラ「失われない音楽祭」、最高のライブだった。

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