OP:米津玄師 「KICK BACK」
多数の映画オマージュが盛り込まれたOP映像。歌われるのは説明不要のシンガーソングライター・米津玄師による「KICK BACK」。なんとアレンジが米津玄師と常田大希(King Gnu)の連名になっており、恐らく2022年のアニメソングで最もビッグネームな組み合わせだろう。
冒頭の「努力」「未来」「A Beautiful Star」の空疎な響き。「チェンソーマン」では努力は裏切られ、未来が見えてもどうにもならない。負け犬たちのリベンジが描かれた本作を、逆説的に浮かび上がらせるのが、モーニング娘。の『そうだ!We’re ALIVE』から引用されたこの一節だ(ちなみにOP映像の中でこの曲の振付を激しくしたようなダンスをめちゃくちゃ踊っている)。
激しいビートとタイトなギターやベースの絡みが印象的な「KICK BACK」の歌詞は、人間の欲が駄々もれになっている。単純な欲望に従って生きている主人公・デンジが描かれる。タイトルの「KICK BACK」とはチェンソーをつかって硬い木などを切るときに、その刃が跳ね返って自分に向かってくる現象。まさに傷つき、代償を払いながら進んでいくチェンソーマンそのものである。しかし同時に「KICK BACK」には、米国のスラングで「(親しい友人関係などのなかで)リラックスできる」といった意味もあり、ダブルミーニングとして読み解ける。
1話ED:Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
現役大学生でありながら2022年にはヒット曲「怪獣の花唄」で紅白出演を果たしたシンガーソングライター・Vaundy。『チェンソーマン』の第一話EDとして提供した「CHAINSAW BLOOD」ではMichael Jacksonライクなギターリフのイントロから始まる歌メロの「洋楽っぽさ」。80年代MTV全盛期のほのかな香りが漂うこの楽曲は、あのギラついていた時代に渦巻いていた拡大し続ける人間の欲望を思い出させる。
第一話「犬とチェンソー」でデンジは言った。「なんでこいつらは十分恵まれてんのに、もっといい生活を望んだ?」人は欲望に突き動かされて無限に幸福を求めてしまう。そんな人の性に警鐘を鳴らし、大量消費社会へ物申す意図を持って作られた映画がある。ジョージ・A・ロメロ監督『ゾンビ』である。この映画では生前の記憶を元にショッピングモールへ殺到するゾンビたちの姿が描かれる。
【大量消費社会を生きる資本主義の奴隷=ゾンビ】と考えた時に、それを切り倒していくチェンソーマンの痛快さたるや。デンジが「人の欲望」に注目したのも、名作『ゾンビ』が下敷きになっているのだろう。Vaundy「CHAINSAW BLOOD」のサウンドはマイケル・ジャクソンの大ヒットアルバム『スリラー』を思い出させるが、そのタイトル曲「スリラー」で踊っていたのも、やはりゾンビなのである。
2話ED:ずっと真夜中でいいのに。「残機 」
ファンキーなスラップベースから幕を開けるのは不定形音楽ユニット・ずっと真夜中で良いのに。による「残機」。デンジとアキとパワー。三人の共同生活が始まっていく第二話「東京到着」のEDを作るにあたり、「チェンソーマン」の大ファンであるヴォーカル・ACAねは、「ここからはじまる3人の新生活、どこか舐め鎖り精神を大切に魂込めてつくりました」とYouTubeにコメントしている。
カオスながらもどこか切ない歌詞。ただ日常を穏やかに過ごしたいだけなのに、戦わざるを得ない現状を表現しているように感じる。狂っているように見えて実は平和主義で、自分の命を奪おうとしたパワーをかばい、誰よりもなんでもない日常を愛しているデンジ。彼を取り巻くカオスだけれども愛おしい環境。
「残機」とは自分の残りのプレイ回数を表すゲーム用語で、キャラクターの死によって自分の「残機」が失われていく。何度も死を経験し、その度に生き返っていくチェンソーマンにぴったりの言葉だが、作中で使い捨てのコマのように使われていく命を歌っているようにも思えてしまう。英訳タイトルは「Time Left(残り時間)」。3人のかけがえのない共同生活には、どれだけの時間が残されているのか。
3話ED:マキシマムザホルモン「刃渡り2億センチ」
ミクスチャーロックのレジェンド、マキシマムザホルモン。「刃渡り2億センチ」は1分半の間に4つの曲展開が盛り込まれた激動の曲で、特に0:31~のAutechreみたいなサウンドが最高。マキシマム ザ ホルモンはロックに何か別ジャンルを混ぜる時の塩梅が絶妙だ。ちなみにフルは公開されておらず、いつか発表されるかどうかも分からない状況。本編ではついにチェンソーマンがついに重厚なバトルシーンを披露。デンジの狂気と勢いが明らかになった3話だからこそ、マキシマムザホルモンにEDが依頼されたのだろう。
この後も何度か挿入歌として使われる、本作を代表する1曲。
4話ED:TOOBOE 「錠剤」
ボカロP・johnとしても活躍するTOOBOE(トオボエ)。狂気とポップさが交じり合った中毒性の強いサウンドは、確かにニコニコ動画が育んだカルチャーの延長にある。自らの楽曲のテーマを「負け犬」としている彼は、マキマの犬となったデンジを描く「チェンソーマン」への共感が強いとのこと。第四話はパワーのエピソードの締めくくりの為、そのキャラクターを意識した結果、血しぶきや血痕から「錠剤」を連想したという。
ここのパワーちゃんボーボボじゃねーかw pic.twitter.com/HEj2kCduxb
— ゆいきょ (@yu1ky0) November 1, 2022
「チェンソーマン」でも有数の不条理キャラであるパワー。同じ週刊少年ジャンプに連載されていた不条理マンガの金字塔「ボボボーボ・ボーボボ」からのオマージュが盛り込まれている。
ちなみにボボボーボ・ボーボボはあまりに不条理すぎてスポンサーが途中でいなくなったのに、その後も半年ほどアニメが続いていたという逸話が残っている。一説にはスタッフや放送局が資金を出し合って続けていたといわれているが、真偽不明。「チェンソーマン」もスポンサーに頼らずに、制作会社であるMAPPAが自ら資金を出してアニメを作り上げたので、通ずるところがある。
パワーちゃんとコベニちゃん😈✌️#chainsawman#チェンソーマン pic.twitter.com/Lj1xa2UY6D
— coalowl(コールアウル) (@coalowl) December 27, 2022
10話のEDを担当したPEOPLE1は、TOOBOEと楽曲のリミックスやライブでの共演などを行ってきた盟友。4話EDの中毒性の強い映像は、絵コンテ・演出・作画をPEOPLE1のMVをよく手掛けているcoalowlが担当し、制作補佐にはPEOPLE1のDeuがクレジットされている。
こういったクリエイター同士の繋がりが、これだけ大きなアニメの中で実現しているのも、MAPPAが自ら制作資金を拠出し、自由度の高いアニメ制作を実現したからだろう。
5話ED:syudou 「インザバックルーム」
Adoへの楽曲提供「うっせぇわ」で一躍時の人となったボカロP・syudouが5話のEDを担当。自ら歌を歌い、尖ったサウンドがその個性を主張する。サビの入りはセルフオマージュだろうか。銃を構える音とがなり声が「うっせぇわ」と同じ作曲者であることを感じさせてくる。
ちなみにこの曲で謳われているバックルームとは、英語圏のインターネット掲示板でよく知られた都市伝説である。一度迷い込んでしまうと二度と出ることは出来ない迷宮で、無限に広がるランダムなオフィスの部屋のようなイメージ。5話のラストで迷い込んだ無限の悪魔の腹の中と共通するモチーフである。
6話ED:Kanaria 「大脳的なランデブー」
5話まで細かいビートの曲が多かったので、ここでようやく音に空白のある楽曲が登場する。KanariaはTOOBOEやsyudouと同様にボカロPなのだが、この「大脳的なランデブー」で初めて自身で歌唱した楽曲を公開した。弱冠20歳。
印象的なのはイントロからサビに至るまで大きな展開の変化がないところ(3話のマキシマムザホルモンとは対照的である)。タイアップ曲となるともう少し展開を作りたくなってしまいそうなものだが、ある種のループをはらんだ本編に合わせた渋い曲構成になっている。映像は5話と同様に、抜け出せない世界を表現しているものと思われる。
7話ED:ano 「ちゅ、多様性。」
歌はかつて「ゆるめるモ!」というアイドルグループに所属していたあのちゃん。冠番組があったり、水曜日のダウンタウンに出演したり、すごい独特な喋り方だったり、個性が面白いミュージシャンだ。それにしても第七話のあのシーンだけに着目して曲を作るとは…。何となく音の選び方や言葉の選び方がチャイナ風なのは、姫野先輩の部屋とか、アキとご飯食べてた店が中国風だったからか。
ベース演奏及び作曲で元・相対性理論の真部脩一、演奏で同バンドのドラム西浦謙助が参加。なんとなくギターのフレーズにシンプルなペンタトニックスケールを使ったフレーズが多かったりするのも、歌がウィスパーボイス気味なのも、相対性理論を思い出すね。
映像は80年代後半~90年代あたりのアーバンなアニメOPやEDの映像のオマージュになっている(美味しんぼの「Dang Dang気になる」とか)。
8話ED: TK from 凛として時雨「first death」
物語が大きく動き出す第八話。EDは、TK from 凛として時雨による「first death」だった。これも一種のギターによる焦燥音楽だ。冒頭のギターから続くカオスな音程のリフは、まさに「チェンソーマン」の不条理な混沌を表しているようで素晴らしい。命を懸けた攻撃が通じない絶望感。
『PSYCHO-PASS サイコパス』や「東京喰種トーキョーグール」など、アニメタイアップの度にオリジナリティと作品へのリスペクトを両立させてきたTK。まさに節目ともいうべき第八話にふさわしい楽曲だったと思う。
9話ED:Aimer「Deep down」
マキマの「異質」さに迫る9話。主題歌は「鬼滅の刃」のOP曲「残響散歌」などで知られるAimerが担当。恐らくマキマをテーマにした楽曲で、イントロからビートが強かったここまでのED曲とは異なり、冒頭~サビ前までは壮大なサウンドの中でAimerの声が響く楽曲である。どんな楽曲群の中にあっても埋もれない彼女の声質が素晴らしい。
それにしてもこの第九話、コベニが大活躍する。ルーザー感のあるキャラに優しい作品である。
10話ED:PEOPLE 1「DOGLAND」
レゲエ調の立ち上がりから、爽やかなサビへの大きなダイナミズムが印象的な「DOGLAND」は、2019年の結成から驚異的なスピードでリスナーを増やしているバンド・PEOPLE1。冒頭を歌うDeuとサビを歌うItoの声質の違いも上手く利用して、曲中で全く異なる風景を浮かび上がらせる。
ソングライターのDeuは、自らが最も好きな音楽でソロ・プロジェクトを立ち上げ、その活動が広がらなかったという挫折を味わったミュージシャン。とあるインタビューではPEOPLE1は「セルアウトに特化した音楽」をするためのプロジェクトで、「好きな音楽でセルアウトをするのが嫌だった(=売れ線に走るのが嫌だった)」から組んだと語っている。
そんな彼らの1stEPのタイトルは『大衆音楽』。ある種の自虐ともとれるような名づけである。挫折を味わい、ルーザー感を漂わせ、「もう手放さなきゃ」と歌い、相反するような個性的な歌声を持つ彼らだからこそ、チェンソーマンのEDに選ばれたのかもしれない。タイトルの「DOGLAND」も直訳すれば「犬の国」。何かに支配された負け犬たちの国で、それでも孤独じゃない情景を歌った楽曲だ。
11話ED:女王蜂「バイオレンス」
物語が終盤に向けて加速していく11話。チェンソーマンが描く邪悪な「必要悪」のイメージ。そのEDを務めたのが神戸で2009年に結成されたバンド・女王蜂だ。そのオリジナルなワードセンス、ヴィジュアル、サウンド、そして特徴的な歌声で強い存在感を放ってきたバンドだ。他のメロや曲展開を抑制することで、「バイオレンス」という一節が際立って印象に残る様に設計された絶妙なバランス感覚。最高。
音域と声質で圧倒的な印象を残した2019年のTVアニメ『どろろ』OP「火炎」も要チェック。
12話ED:Eve「ファイトソング」
最終話EDは歌い手からボカロPを経てシンガーソングライターになっていた2010年代の落とし子・EVE。『チェンソーマン』と制作スタジオが同じである、アニメ『呪術廻戦』のOPテーマ「廻廻奇譚」でも知られたシンガーだ。
12話のEDは「復讐」を乗り越え、穏やかな日常へと戻っていく三人が描かれている。「ファイトソング」に歌われたように、狂っているように見えて、実はただ平和な日常を過ごしたいデンジ。その心情を考えると、この映像と歌の組み合わせは、胸にくるものがある。
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