失恋ソングを分類
失恋ソングには次の4つのパターンがある。
- フラれた直後で、未練がある
- フラれて時間が経っている
- フル側である
- 「失恋した自分」を客観的に見ている
失恋後のどの時点から振り返っているのかで、1→2へと進行していく。直後なら未練がかなりあり、数年後から振り返る曲なら未練は断ち切られている。例えばスピッツ「チェリー」は、かなり過去の失恋を振り返っているのか、一見すると失恋ソングであることを見落としそうになる仕上がりだ。
またこの他に、失恋とテーマが近い、片思いソングというものもある。それぞれの良さを隠れた名曲を元に聴いていこう。
「フラれた直後で、未練がある」失恋ソングの名曲
別れた直後の方が聴くときっと染みるのが、この分野の曲の特徴だ。
君が誰かの彼女になりくさっても/天才バンド
CMソングなどでも活躍するVo.奇妙礼太郎が唯一無二の声を通じて歌うのは、別れた彼女へ残る愛。「なりくさっても」という言葉選びの衝撃。「君の未来に僕はいない 僕の未来に君はいない」と突き刺さるフレーズが続く。天才バンドのメンバーであるSundayカミデ(Key.Ba.)が2009年に、しゃかりきコロンブス名義でリリースした楽曲のカバー。リアルな感覚に貫かれた、失恋ソングの大名曲だ。
あいつの犬/松本千夏
お別れの歌/never young beach
良質なシティポップを作ってきたnever young beachが、ストレートな言葉とサウンドで世に出した異色の楽曲。ロックサウンドと「2人だけの秘密は全部 日々に溶けたよ」というフレーズのギャップが美しい。普段お洒落な曲をリリースしているだけに、いつもとの違いにやられた。MVの前半では小松奈々と付き合っている気分にさせられる動画が3分半も続くという構成も新しい。
キッチン/星野源
別れの翌日、キッチンで寝ている自分に気が付く、鼻をくすぐるのは彼女が残していった料理の香りだ。全てが変わってしまったのに、香りだけが残っている。男は料理を捨てられずにいる。そのときの感傷も、いつかは時間の流れと共に忘れ去られてしまう。「自分の中で薄れていく失恋」の切なさすら歌にした、星野源 初期の名曲。
YouTubeにアップロードが無いため、各種サブスクもしくはCDで確認してほしい。
恋なんて/羊文学
オルタナティブなマナーに則った楽曲が印象的な3ピースバンド・羊文学がリリースした別れの1曲。1度目のサビの後の、たくさんの言葉がは吐き出される怒涛の展開が沁みる。生活感のあるフレーズから、概念の世界へと羽ばたいていく曲展開。立体的に失恋を描き出す詞が秀逸だ。
ただいま/手嶌葵
ジブリ映画『ゲド戦記』のテルーの唄でも知られる歌姫・手嶌葵。彼女が2021年にリリースした「ただいま」は、圧倒的な生活感と実在感の中で描かれた同棲解消ソングだ。静かな哀しみが染み入る。
バラ色の日々/MOROHA
異色のアコースティックHIPHOPデュオ、MOROHAが送り出したリアルな失恋ソング。映像作家・エリザベス宮地が元カノとの間で2年間で撮り貯めた写真・映像が使われているドキュメンタリー作品がPVになっているだ。自分の恋を振り返るこの作品を発表するために、映像作家自らMOROHAに声をかけたという。失恋の先で新たな出会いがあるからこそ「それが悲しくて今 泣いてる」という詞のリアリティーに触れてほしい。
ごめんね/マイアミパーティー
「フラれて時間が経っている」失恋ソングの名曲
別れたあと、立ち直っていく自分を描くのが、この分野の特徴。もともと失恋ソングはここに分類される曲が多い印象で、槇原敬之の「もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対」というフレーズや、つじあやの「風になる」で再び恋をし始める主人公などが印象的だ。
染まるよ/チャットモンチー
あたたかな手/ハンバートハンバート
筆者的にはNo.1の失恋ソング。夫婦デュオ・ハンバートハンバートがアルバム『家族行進曲』の中で発表した楽曲だ。いつもの些細なケンカが思いがけず別れに繋がって、その後寒い季節が来るたびに、別れたあの日を思い出す。YouTubeでは上記のアコースティック版のみだが、各サブスクで聞けるCD音源では、後半に4回の転調を差し込んだ衝撃的な展開の曲になっているため是非そちらも聞いてほしい。
「フル側」の失恋ソングの名曲
最近ではフル側の気持ちに寄り添った、あるいはフルことを肯定するような楽曲を発表するシンガーも現れている。
melt bitter/さとうもか
サウンドのポップさと裏腹に、恋愛のシビアな現実について歌われた楽曲。
私たちは運命だと本気で思い込んでたけど 本当は長くいたから似てきてただけ
作詞・作曲 さとうもか「melt bitter」
この歌詞に込められた実感と、それでも消えない思い出の間で揺れ動く心理描写。感情があふれ出すように多くの文字が詰め込まれているが、それらをポップなフレーズに昇華させる、さとうもかの非凡なセンスにも注目してほしい。
Love Buds/さとうもか
ラヴソング/FINLANDS
塩入冬湖によるソロプロジェクト・FINLANDSの失恋ソングは、キャッチーなメロディー・鋭くノイジーな歌声・元カレに1ミリも未練がなさそうな歌詞という衝撃作。これに「ラヴソング」ってタイトルを付けるカッコよさがある。
「失恋した自分を客観的に見る」の失恋ソングの名曲
新しい失恋ソングの中には、失恋した自分を客観的に見ているような、大人のリアリティーに満ちた楽曲もある。
33歳のエンディングノート/大比良瑞希
宇多田ヒカルを彷彿とさせるR&B調のビートの上で、「正社員」の彼との恋の終わりが歌わっている。彼を気に入っていた母親に謝っていたり、残していったシェーバーを処分していたり。今までの失恋ソングにはなかったリアルな詞。等身大の33歳をクールに作品へと昇華させた異色の失恋曲だ。
恋の顛末/ハンバートハンバート
タイムリミット/クラムボン
切ないサウンドに乗せて歌われる、時間の残酷さ。誰もが経験する「言いのこしたこと」「やりのこしたこと」も、もう取り戻せない。サビの度に少しずつ変わっていくフレーズが、ゆっくりと胸の内に入ってくる。相手との恋愛事情ではなく時間に着目することで、非情だけれども厳しい現実を明らかにする。1995年結成の3ピースバンド・クラムボンが、1999年にリリースした楽曲「タイムリミット」のセルフカバー版。
片思いソングの名曲
次にそもそも恋愛関係になっていない、片思いを歌った曲をご紹介していきたい。片側からの恋愛感情という意味では、失恋ソングと同じ心境を歌ったものも多くある印象だ。
SUNDAY/シュウタネギ
京都で活躍したバレーボウイズの作詞作曲とボーカルを務めていたシュウタネギのソロ作。チルなリズムは多くの感情を語らないが、一方でその肌寒い気温を想像させるようで、聴き手にリアルな片思いの質感を感じさせる1曲になっている。またこの曲は聴きようによっては、失恋ソングなのかもしれない。
横顔しか知らない/ハンバートハンバート
ハンバートハンバートが15周年記念アルバム『FOLK』にて2016年に発表した新曲。どこか携帯電話が普及する前の恋愛を思わせる、不思議な情景である。思えば昔は、想い人と連絡を取る方法も限られていた。その頃、人はどうやって知り合って、互いに中を深めていってたんだろう。フォーキーな曲調がセピア色の片思いを想起させる。
あいのうた/安藤明子
京都でよい曲をリリースし続けてきたシンガーソングライター・安藤明子の「あいのうた」。声質や発音、ギターの音色。全てが彼女の世界を形作る。片思いの前夜を表現するという新しさもありつつ、「あなた」との微妙な関係性も表現し、どこか懐かしさで満たされる1曲。
スパイダー/スピッツ
後悔/柴田聡子
シンガーソングライター・柴田聡子が描き出す、ロマンティックなのにどこかリアルな一夜の思い出。特にラストサビの、どちらが一歩を踏み出すかという駆け引きの中で、結局どちらも踏み出さずに終わってしまう切なさは、やはり現実の恋愛なのである。
CALL/スカート
澤部 渡によるソロプロジェクト・スカート。ポップ・マエストロと評される彼が2016年に送り出した寂しさと明るさが絶妙に混ざり合った名曲が「CALL」だ。心にすっと入ってくるメロディーにのせられるのは、美しい風景と「あなたの不在」。切ない。
春一番/にしな
春というと明るいイメージがあるが卒業シーズンであり、「別れ」を表す季節ともいえるだろう。25歳、新世代の女性シンガーソングライターと言えるにしなは、春(=卒業)と片思いを組み合わせ、切ない思いをサビの叫びに乗せた「春一番」をリリースしている。最後まで思いを伝えずに別々の進路へと進んでいく、そんな経験を皆さんも味わったのではないでしょうか。
おわりに
今回は失恋ソング・片思いソングをいくつかご紹介した。失恋・片思いを歌うことは、一人一人の個人的な思い出を、どれだけリアリティーを持ってリスナーに届けるのか、というところでミュージシャンそれぞれの詩的感覚が光る。タバコで別れた彼氏を思い出したり、料理で別れた彼女を思い出したり、こういった失恋の経験はみんなに共通する思い出じゃないのだが、まるで自分が経験したことのように感じさせられる。そんな曲を聴くとき、僕らは自分の事のように失恋を追体験し、歌声が胸を打つ。
ぜひ皆さんの好きな失恋ソングも、下部のコメント欄に残していってください。それでは。
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