リアルが息づく曲
TVでは今日も小奇麗な歌が流れる。愛や恋を描くキラキラした世界、綺麗な言葉だけで作られた歌はいったい誰の心に響くのか。そんなのより飾らない言葉で綴った歌を聴きたい人は、きっと少なくない。今回はストレートに書きすぎたため歌詞が過激になり、絶対にTVでは流せなくなった曲を紹介していきたい。
アジアの汗/寺尾紗穂
どこか民謡染みた歌声と、社会問題に言及した歌詞が特徴的なシンガーソングライター寺尾紗穂。彼女が2010年にリリースした楽曲が「アジアの汗」だ。
緩急に富んだ演奏で描かれるのは、日本の発展の犠牲になっていったアジア人の姿。ユーモアとフォークロアが同居する美しいメロディーが空しく響き渡るこの曲は、レコード会社の要請により歌詞の一部を削除してリリースされた。その際、楽曲のタイトルが「アジアの汗(Controlled Version)」に変更されることとなった。
彼女の無念が伝わってくるタイトルである。そして歌詞を削除していない上記動画のものを、寺尾紗穂は自主制作という形でリリースした。
そのタイトルがこちら。衝撃的なリリースだった。ホームレス経験者のダンスグループをステージで躍らせ、原発労働者と交流し、実際に会ったおじさんをモデルに「アジアの汗」を書くシンガーソングライター・寺尾紗穂。彼女が自分の足を使って積んだ経験が、強いメッセージ性をはらんだ曲を生み出した。
銭湯の思い出/ミドリカワ書房
リアルな詞で様々な感情を描いてきたシンガーソングライター、ミドリカワ書房が『愛にのぼせろ』というアルバムに収録した楽曲。
男で銭湯に行ったことがある人なら、なんとなく分かる場面が描かれる。カントリー調の曲に乗せられるのは少年時代の僕の心に浮かんだ、おじさんの背中に書かれた絵への純粋な感情。強いコンプレックスを抱えた二人の男女が、それぞれに惹かれあい結ばれていく物語で、失われた父親というパズルのピースがハマる。途中で吉田拓郎の「人生を語らず」が借景されている。
少年に受け身ではなく能動的に生きろと熱く語りかける歌は、教訓なんて決して語れず、遠回りにしかアドバイスが出来ないおじさんの立場を思わせる。ストレートに語りながらも、それ以上に多くの含みを言葉の外に持たせている楽曲だ。
この胸の中だけ/フラワーカンパニーズ
歌詞だけを見れば40を過ぎたおじさんが過去を振り返り、リアルな感情を綴っている曲に見える。しかし刑務所を慰問するMVが曲を肉付け、その背景を作り上げていくのだ。それぞれの胸に訪れる2つの過去、少年時代ともうひとつ。話し言葉の素朴な歌詞はレゲエに合う。
という本を出すほど長く不遇な時代を過ごしてきたベテランバンド・フラワーカンパニーズ。彼らが歌うからこそ響く言葉だ。
甲州街道はもう夏なのさ/Lantern Parade
冒頭、月と職務質問の対比。風情とリアルが同居する曲で、複雑な感情を呑み込み甲州街道に訪れた四季に託しているようだ。Lantern Paradeは様々な音源をサンプリングして曲を作る人で、「甲州街道はもう夏なのさ」も大貫妙子の楽曲から取られている。
なぜ冒頭で職務質問を受けたのか、その理由を示唆するような歌詞だ。また本作のタイトルはRCサクセションの「甲州街道はもう秋なのさ」をオマージュしている。
心の中に浮かんだことを隠さずに歌ってきたのが、RCサクセションの忌野清志郎という人だ。自分をだました誰かへの怒りを露わにする楽曲で、どこか社会への不信を歌っているよう。これを下敷きに「甲州街道はもう夏なのさ」は生まれたのだろう。
小名浜/鬼
福島県いわき市小名浜出身のラッパー・鬼。彼が2度目の獄中生活の際に書いた詞で作られたアルバム『獄窓』から、地元のことを歌った「小名浜」を聴いていただきたい。
衝撃的な言葉が飛び交うこの曲のラスト、鬼は小名浜を出て東京で歌うことを決める。とあるインタビューで、獄中で書いた詞は外で書いたものと違うかと問われ、中で書いたものの方が素直に書けると答えていた鬼。全てが実話なのだと思わせる迫力がある。
竹原ピストルのバンド、野狐禅
衝撃的なタイトル、そして歌詞。竹原ピストルが在籍したフォークバンド、野狐禅(やこぜん)のファーストシングルだ。そのスピードに生を感じるところが、彼らしい。
今の竹原ピストルと、決して大きな違いはない。この味こそ彼の魅力なのだろう。
おわりに
TVでは放送できないであろうストレートな歌詞の曲をいくつか見てきた。決して過激だから紹介したのではない。もっと過激で反社会的な曲なんていくらでもある。ただこういう言葉でしか描けない感情というのは確かにあると、俺は思う。なにか感じるものがあった方は、またこのページに帰ってきて頂けると嬉しいです。それでは。
コメント