小説家が作詞した楽曲はオリジナリティーに溢れていた

文学と音楽の距離が接近する現代、言葉のプロである小説家たちが作詞したオススメの曲を紹介していく。
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小説家が作詞をするということ

小説家が作詞した曲は珍しいだろうか。そんなことはない。例えば明治生まれの文豪・室生犀星はいくつかの校歌を残しているし、重松清は学生のための合唱曲に詞を提供している。村上龍なんてK-POPのアーティストに言葉を渡しているのだ。

餅は餅屋とは言ったものだが、小説家は言葉のプロである。オリジナルで面白い試みが成されているものもあるので、ぜひ紹介したい。

斉藤和義「ベリー ベリー ストロング~アイネクライネ~」

バックビートが印象的なロックンロール・ナンバーに乗せられるのは、伊坂幸太郎の短編小説を斉藤和義が仕立てなおした歌詞。実は斉藤に作詞を頼まれた伊坂が、詞は書けないけど短編ならと発表した短編作品「アイネクライネ」に手が加えられて歌になったのものなのだ。親交の深い2人の友情の1曲である。

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2007年の曲ながら、ついに三浦春馬・多部未華子主演で実写映画化。斉藤和義は主題歌「小さな夜」を書き下ろし、劇中音楽を担当するなど全力のサポート体制で臨むようだ。

元になった短編はこちら。

対談本も出版されており、二人の仲の良さが感じさせられる。

チャットモンチー「例えば、」

『サラバ!』で直木賞を受賞した年に、西加奈子がチャットモンチーに詞を提供した楽曲で歌詞の試みが面白い。

「例えば、/チャットモンチー」の歌詞 って「イイネ!」
「天文台を盗んだのは やっぱり夢だった う…」勇気をもらったり、泣けたり、癒されたり…、この歌詞をチェックしてみて!人の心を打つ「言葉」がぎっしり!

最後の注意書きにあるようにラストで様々な「例えば、」が登場するのだが、Vo.えっちゃんの歌だけでは完成しないのだ。聴く人の心の中で欠けているものを足して、最後に自分自身の「例えば、」を加えることで、ようやくこの曲は完結する。チャットモンチーと西加奈子は相思相愛の関係にあり、ゲストを迎えただけのお祭りソングではなかった。

V6「出せない手紙」

『蜜蜂と遠雷』などの大ヒットで知られる恩田陸は、自作『ネバーランド』がドラマ化した際にV6が歌うテーマソングを自ら作詞した。その表現欲はすさまじいが、ジャニーズの楽曲なのでCDで確認してほしい。

余談になるがこのドラマは4人のジャニーズJr.が出演しており、知名度も無かったため視聴率が低迷した。しかしその4人とは今井翼(タッキー&翼)・生田斗真・村上信五(関ジャニ∞)・田中聖(元KAT-TUN)であり、今では想像も出来ない豪華メンバーだったのである。

近藤真彦「ギンギラギンにさりげなく」

ジャニーズつながりでもう一曲紹介しておくと、直木賞など様々な賞を受賞した小説家である伊集院静は、このヒット曲を世に送り出している。詩的な歌詞ではないのだが、サビに使われている「ギンギラギンにさりげなく」というフレーズがこの曲をヒットさせたことは間違いない。小説家の言葉の力を感じる楽曲だ。

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合唱曲「この☆のゆくえ」

『カラフル』等のヒットで児童文学の旗手となった森絵都は、NHK全国学校音楽コンクール小学校の部の課題曲を作詞している。キャッチーな☆をサビに使いながら、子どもたちに生命の連鎖や自分たちの未来を考えさせる良曲だ。

合唱曲「次元」

「桐島、部活やめるってよ」「何者」で有名な浅井リョウは同コンクールの高等学年の部課題曲を作詞している。

高等学校の部「次元」(混声四部合唱) / NHK東京児童合唱団ユースシンガーズ & 早稲田大学コール・フリューゲル
高等学校の部「次元」(混声四部合唱) / NHK東京児童合唱団ユースシンガーズ & 早稲田大学コール・フリューゲル の歌詞ページです。アルバム:第83回(平成28年度) NHK全国学校音楽コンクール 課題曲 作詞:朝井 リョウ 作曲:三宅 悠太 歌いだし:教室の壁の世界地図 一筆書きでつなぐ星 (1202876)

想像力をテーマに書かれた「次元」は、様々な解釈を可能とする難解な詞になっていて、これ自体がもうすぐ大人になる高校生への問いかけとなっているようだ。高校生向けの曲だけあって、かなり高度な曲なので聴きごたえがある。聴き終えた頃には、広い宇宙の起源に至るまでの長い旅を終えたような感覚になっているはずだ。

三島由紀夫「からっ風野郎」

文学史に残るカオスな曲「からっ風野郎」は、なんと三島由紀夫が作詞だけでなくヴォーカルも務めている。三島は同名の映画も主演、どうしてもやりたいという熱意から実現した企画だったが、あまりの大根役者ぶりに酷評されたそうだ(後に演技力が向上し、映画『人斬り』での演技は好評を博した)。曲中の「からっ風野郎」の言い方に芯が無さ過ぎて、共感性羞恥が発動してしまいそうになるが、この失敗も芸の肥やしにして後に繋げたのはさすが大作家といえる。

おわりに

三島由紀夫の時代は「文学者がレコードを出すなんて」と話題になっていたようだが、今や音楽と文学の距離は近づいている。川上未映子はミュージシャンとしてメジャーデビューした後に、小説家としての才能を開花し芥川賞を受賞した。SEKAI NO OWARIのピアニスト・Saoriの書いた小説が直木賞にノミネートされたことは記憶に新しいし、詩人/小説家の最果タヒは[ALEXANDROS]に詞を提供しただけでなく、ゲストヴォーカルとして参加している。

『冷静と情熱のあいだ』の江國香織は、ルネサンス期の芸術家であるミケランジェロの展覧会に寄せられたイメージソングに、歌詞を提供した。音楽と美術と文学がミックスされ、新たな表現が生まれつつあるのが現代なのだ。今後も更に文学と音楽、そして他の文化が混じり合っていくだろう。その混沌の中で何が生まれていくのか、心待ちにしている。

下にコメント欄があるので皆さんのおすすめの曲を書いてみてくださいね。それでは。

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