- 若者のアイコンとなったシンガーソングライターあいみょん。デビュー曲「生きていたんだよな」は、とあるニュースから着想を得て作られた。その約45年前、ユーミンも同じテーマの曲をリリースしている。その違いを比べることで、2人の特徴を考える。
あいみょんのデビュー曲
2016年、後に平成のカリスマと呼ばれることになる一人のシンガーソングライターがメジャーデビューを果たした。社会問題を歌うフォークと個人の愛と哀しみを語ったニューミュージックの影響を受けながら、強烈な歌詞を引っ提げて世に出た21歳。あいみょんはデビュー曲「生きていたんだよな」で、人生を終わらせる決断をした誰かの心を、すくい取ろうとした。
身を投げた女子高生のニュースを聴いて生まれたというこの曲で、彼女はその選択を否定せず自分の共感を書き綴っている。
「生きていたんだよな」が持つ力は、戦場カメラマンが撮る写真に似ている。あまりにも強い表現・情景は、ただ耳から入ってくるだけで人の心を揺さぶるのだ。
この曲が持つ表現は、約45年前にリリースされたとある歌を思い出させる。
荒井由実「ひこうき雲」
松任谷由実、旧姓・荒井由実。ユーミンの名で親しまれる彼女の、初期の代表曲「ひこうき雲」である。
リリース時に19歳だった少女の早熟な感性が歌うのは、身を投げた「あの子」のこころ。ジブリ映画『風立ちぬ』の主題歌としても知られるこの曲は、彼女の1stアルバムのタイトル曲にも採用された。
ユーミンが高校一年生の時に、小学校の同級生が病気で亡くなった。「ひこうき雲」にはその衝撃が閉じ込められている。
神からギフトを与えられた一握りの天才がたどり着ける想像の境地。自ら人生を終わらせる人は、その終点(あるいはその先)に何を想うのか、彼女の答えはこの曲の中にある。
こころに寄り添う
「生きていたんだよな」と「ひこうき雲」は投身を抑止する曲ではないし、だからこそ批判されることもある。
しかし曲が書かれた経緯からも分かるように、彼女たちは命を軽視しているわけではない。ただ死者のこころに寄り添ったのである。
当時の音源を試聴してほしい。17歳で既に曲を提供していたこの天才少女は、透明な歌声を響かせる。生者ではなく死者のために。
二人の歌姫、その違いは
45年の時を経た共通点もあれば、もちろん相違点もある。あいみょんの詞には社会批判的な側面があり、彼女がリスペクトを語るフォークミュージシャンらの影響が見られる。社会問題を歌った浜田省吾はその代表だろう。Aメロの詞に見られるあいみょんの怒りが、「生きていたんだよな」の方向性を決定づけている。
ユーミンも歌詞の中に周囲の人々を登場させているが、単に「わからない」と言うに留めている。そこにあるのはあいみょんの怒りとは全く異なるメッセージだ。
「ひこうき雲」は純粋な想像の跳躍であり、死後の幸福を祈る感性なのである。そこに人生の終わりのあとに待ち受ける、甘美な孤独への憧れも見てとれる。彼女は自分のこころを、批判を恐れずさらけ出しているのだ。
共感を生むあいみょんの詞と、美しいユーミンの詞。カリスマと芸術家。同じテーマで書いている二人を比較するからこそ、単体では見えづらい決定的な姿勢の違いが見えてくる。
おわりに
10代の内から活躍していた二人のシンガーソングライター。彼女たちは安易に正しさを叫ぶよりも、誰かに寄り添える歌を作り上げてきた。
ユーミンは「ひこうき雲」の後にも数々のヒット曲を産み出し、邦楽に与えた影響は計り知れない。
あいみょんは現在24歳。ユーミンが歩んできた40年の伝説のように、彼女の未来にも素晴らしい創造が伴うことを祈っている。それでは。
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