【機材】田渕ひさ子の使用ギター、エフェクターから知るあの音

田渕ひさ子の「あの轟音」「あの残響」に迫る機材リサーチ記事。使用しているギターはもちろん、アンプ、エフェクター、シールド、ストラップなどをご紹介。
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田渕ひさ子の強烈な存在感

この記事にたどり着いた時点で、恐らくあなたは田渕ひさ子の音に魅せられている人なのだと思う。それでも念のため説明をさせてもらうと、田渕ひさ子は日本を代表するオルタナティブ・ロックバンドであるNUMBER GIRLのリードギターで、わずか7年ほどの活動期間で後の邦ロックに計り知れない影響を与えた4人組の一人だ。NUMBER GIRLの解散後もtoddleを結成し、bloodthirsty butchersへも参加するなど、日本のオルタナを牽引するギタリストの一人と言えるだろう。

特にFenderのジャズマスターを使っている日本人と言えば、真っ先に彼女の名前を挙げる人も多いと思われる。ショートディレイやファズを駆使し、力強いアーミングでギターを演奏する圧倒的な存在感は、「ギターをかき鳴らす」というよくある慣用句的な表現が生やさしく思えてしまうほどの轟音。これぞエレクトリック・ギターの真骨頂であり、楽譜に起こすことのできない生々しい魅力がある。

彼女の音の秘密を探るために、使用しているギターやアンプ、エフェクターなどの機材類を調査してみた。

田渕ひさ子の使用ギター:1965年製のFender ジャズマスター

元々はジャガーを弾いていた田渕ひさ子だったが、ジャズマスターに持ち替えて以来30年間弾き続けているという。それが1965年製のジャズマスターだ。1999年ごろの透明少女の演奏でも登場しているこのギターは、彼女にかき鳴らされる中で大きくその姿を変えていった。

2021年の映像。激しく削れた塗装は、田渕ひさ子がこれまでにこのギターと過ごした歳月を物語る。フロントピックアップの上が削れているところが目立つが、それよりもブリッジとテイルピースの間が削れているところに、彼女特有の弾き方を感じられる

ジャズマスターと言えば弦落ち(演奏中にサドルから弦が落ちてしまうこと)がある種の構造的な欠陥とされていて、特に激しく弾くとすぐに弦落ちする。田渕ひさ子は弦落ち対策として、サドルの1弦と6弦のネジを3,4弦のものと交換することで弦落ちを防いでいるとのこと。

ちなみにチューニングが変わる場合などで使用しているサブギターは1962年製のジャズマスター(サンバースト)。もちろん同種のギターなので持ち替えても近しい音が出るメリットはあるが、色まで同じとは愛ではないだろうか

余談:ジャズマスターの名前の由来と歴史

ところでジャズマスターはなぜこういった機種名なのか。実はフェンダー社が1958年に「ジャズギタリスト」向けの上位機種として開発したギターなのである。想定と異なり、ジャズギタリストの間にこのギターは普及しなかったが、60年代前半のポップミュージックの文脈で人気を博することとなった。

だがその人気も長くは続かず、80年代後半には生産が中止される事態に。このジャズマスターを復活させたのが、90年代のオルタナティブロック/グランジの文脈というわけだ。ジャズギタリストのために開発された独特なアームとブリッジの構造が元の名前から遠く離れたところで、浮遊感のあるサウンドを鳴らしていることにもロマンを感じる。

田渕ひさ子の使用アンプ:1974年製 Marshall 1959

福岡でNUMBER GIRLが活動していた頃に手に入れたという1974年製 Marshall 1959を現在でもメインのアンプとして使っている田渕ひさ子。インディーズ時代から巨大なアンプを持ち込んでいたというのはちょっと珍しいんじゃないだろうか。アンプを持って行けない時もマーシャルがあれば使うとのことで、マーシャルは田渕ひさ子の音のかなり重要な部分を占めている。大きい音を出しても耳に突き刺さる感じでなく、中域が強いのが自分のギターの特徴と田渕ひさ子は語る。

ちなみにクリーントーンで使用して、歪みは後述するブルースドライバーで作っている(歪むまでマーシャルであげたら音量が大変なことになるという)。またセッティング面では、ギターボーカルの向井秀徳が極端にハイの出た音作りなので、リードギターとしては珍しく角の取れた中音域主体の音色なのも個性だ。中音域となると、そこでどう適度に目立つのかが課題になってくるが、多様な歪みエフェクターと空間系エフェクターでカバーしている。

toddleではまた違ったサウンドメイクをしている田渕ひさ子だが、やはりマーシャルにジャズマスターであることは変わらない。下北沢シェルターにおいてあるマーシャルでは上記のセッティングに後述するブルースドライバーで歪ませて演奏したようだ。

1:46~田渕ひさ子ギターソロではフロントピックアップの音が心地いい。NUMBER GIRLでの演奏とはまた違ったアプローチだ。そして歌いながら弾いている様子を見ると、やはりピッキングが独特。ちなみにキャビネットは現在はOrangeのPPC412を使っているようだ(Orange公式HPに記載あり)。

ボリュームを絞り気味なのも特徴的。

田渕ひさ子の使用オーバードライブ:BOSS Blues Driver(BD-2)

田渕ひさ子が常に持って行っているエフェクター。誰もが知る定番で、NUMBER GIRLのときはクランチサウンドを作るときに使うとのこと。ジャズマスターとマーシャルのアンプ、オレンジのキャビネットと同時期にブルースドライバーを使い始めたという。かなり長い間基本のスタイルになっているようだ。マーシャルで歪ませているのかと思いきや、マーシャルではクリーントーンを作りこんで、歪みはブルースドライバーで作っている状況。

クリーンにこのBD-2をかけた音が全ての音作りの基本になっていて、常に一番前に繋いでいるという(どのアンプを使っても、アンプをクリーンにしてBD-2で音作りをすれば基本の音の方向性が作れるというイメージか)。LEVEL11時、TONE10時、GAIN11時くらいで使っているようだ。ちなみに近年はBD-2が高品質になったBD-2W(技クラフト)を使っている。常にブルースドライバーをかけているからライブ中に踏むことはあまりないとか。

田渕ひさ子の使用クリーンブースター:EarthQuaker Devices Arrows

 

田渕ひさ子がブルースドライバーの次に繋いでいるのが、EarthQuaker DevicesのArrowsだ。あまり歪んでいないクランチサウンドのまま目立ちたいときとのこと。わかりやすいのが「OMOIDE IN MY HEAD」のイントロの終わり(この動画では1:30あたりでArrowsを踏み、1:41あたりでオフにしている)だ。爽やかな音のままで個性的なバンドの中に埋もれないようにする使い方である。

田渕ひさ子の使用オーバードライブ②:idea sound product IDEA-TSX ver.2

NUMBER GIRLのセッティングの時にBD-2→arrowsの次につながれているエフェクター。バッキングを歪ませた音で弾きたいとき(ソロではないとき)に使う。Tube Screamer TS-808をリスペクトして作られたオーバードライブ。

田渕ひさ子の使用オーバードライブ③:KLON CENTAUR

これぞ田渕ひさ子サウンド、これぞ伝説のオーバードライブ。KLONのCENTAUR(ケンタウルス)だ。後にKLON系(あるいはケンタウルス系)と呼ばれるエフェクター群が登場するほどの影響力を持った名機で、田渕ひさ子が使用しているのは銀色でケンタウロスの絵がプリントされたもの。田渕ひさ子がギターソロで使用している(ハイフレットにギャギャっと弾いてるときはこれ、TATTOOありのあの爆音、NUM-AMI-DABUTZのイントロ終わりのあの轟音)。透明感や浮遊感を持った歪み方をする。高価すぎるので最近はレコーディングなどでしか使っていないとか。

中域がすごく出る歪み系エフェクターとのことで、それが「自分のギターは中域」であると様々なインタビューで答えている田渕ひさ子の核になっている。ちなみに2000年 SAPPUKEIツアーの熊本で購入したとのこと。

KLON Centaur
島村楽器 USED SHOP

田渕ひさ子の使用オーバードライブ④:EarthQuaker Devices Plumes

さて、KLON CENTAURはあまりライブでは使われなくなった。ではNUMBER GIRL再結成後の激しいギターソロは何で歪ませていたのかというと、このPlumesである。TS系と呼ばれる中でも人気のある機種で、コンプレッサー感が強いのもいいとのこと。セッティングはGain0、Volumeフル。再結成後の「OMOIDE IN MY HEAD」のアウトロなど、様々なところで使用している様子が見られる。

またEarthQuaker Devicesのエフェクターはデザインも好きとのこと。

田渕ひさ子の空間系エフェクター①:TATTOOありセット

「TATTOOあり」のイントロでうねる、田渕ひさ子らしい音はどうやって作るのか。まずジャズマスター、マーシャルのアンプ、オレンジのキャビネット、ブルースドライバー、ケンタウロスと来て、次に何が来るのかというとコーラスとディレイの重ね掛けなのである。コーラスとディレイのエフェクターで何を使うかは、その時々で入れ替わったりしているようだが、一例は次の組み合わせ。

  • BOSS CE2W コーラス 技クラフト
  • BOSS RV-3 デジタルリバーブ/ディレイ
  • PROVIDENCE P-4TB TRUBYPASS トゥルーバイパス

ディレイはかなり短いタイムでかけて(いわゆるショート・ディレイ)、コーラスと重ねる。TATTOOありなどだと同時に二つのエフェクターをオン/オフしないといけないので、トゥルーバイパスで2台をあらかじめ繋いで、まとめて切り替えられるようにしている。でもスイッチャーは使わないのが田渕流。重くなりすぎないようにしている。

田渕ひさ子の空間系エフェクター②:EarthQuaker Devices Dispatch Master

 

ショートディレイをBOSSが担っているとしたら、長いディレイやリバーブを担っているのがこのDispatch Masterだ。美しく、気持ちの良いフレーズがバンドの中で埋もれずに鳴るとのこと。歪んでいても綺麗に聴こえ、暖かみのあるアナログ感もお気に入りポイント。BOSSのディレイがド派手なので、そうではない時に使い分けている。使用例としてtoddleの「Disillusion」のギターソロではずっとかけているとのこと(2:28~)。

田渕ひさ子の使用シールド:Ex-pro

シールドはEx-proのものを使用。面白いのがギターからエフェクトボードにはFL(細い)、エフェクトボードからアンプにはFA(太い)が使い分けられていて、そこがインタビューでは即答されていたので、こだわりを持ってチョイスしていることが分かる

ちなみにパッチケーブルもEx-proで統一されている。

田渕ひさ子の使用エレキギター弦:PROGRESSIVES カスタムライト09-46

ギター弦はghsのカスタムライト(1弦が09になっているもの)を使っていたが、太さが09-46ではなく、10-46の時もあるとのこと。

田渕ひさ子の使用ストラップ:VOX STRAP MM25

田渕ひさ子ほどの愛されギタリストになると、ギターストラップだけでインタビュー記事が存在する。そして田渕ひさ子のストラップよく見たらめっちゃ変わったやつを使ってる。VOXのMM25というストラップの黒を愛用しているようだ。メインギターにもサブギターにも同じものを付けていて、(違うものらしいが)透明少女で見比べても1999年でも、2022年でも同じようなストラップをつけている。幅1.6cmの極細ストラップで、革製

おわりに

田渕ひさ子は複数のバンドを掛け持ちしているが、バンド毎にエフェクトボードを組みなおすらしく、かなり大変だ。だが、組みなおすたびに必ずガムテープでゴミを取るので、常にめちゃくちゃきれいらしい。

10台くらいしか入らない比較的小さいエフェクトボードで毎回必要な音を用意しているという職人的な側面もある一方、ギターからブルースドライバーくらいまでは20年以上変わっていないという芯の部分もあり非常に参考になる。

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