[ALEXANDROS]「あまりにも素敵な夜だから」
これ見よがしに出てくる黒人は、この曲のルーツがブラックミュージックにあることを明示する。ファンクそのものではなく、これまでの彼らの音楽性にファンクが混入していく。
あくまでロックを主軸にやってきた[ALEXANDROS]。ファンキーなギターカッティングが主体の『あまりにも素敵な夜だから』で、往年のファンクスターばりのシャウトを見せる(5:10~)。
これまでも「Aoyama」「Feel Like」(共に2016年『EXIST!』にて発表)でファンクへのアプローチを試してきていた彼らだが、今回は配信限定とはいえシングルである。NHKのドラマ『ミス・ジコチョー〜天才・天ノ教授の調査ファイル〜』の主題歌として、タイアップもついており、彼らの新たな一面として世に押し出していく気なのだ。
某ラジオでは[ALEXANDROS]のギタリスト・白井が、Earth, Wind & FireやPrinceなどの楽曲をギターフレーズに注目して聴いているという発言があった。本当に昔のファンク・スターたちに学びながら楽曲を作っているのだ。
インタビューで作詞・作曲を担当したヴォーカル・川上洋平が、「やりたいからやった」というニュアンスの発言をしている。時代が少しずつファンクサウンドを求めているのか。
木梨憲武「GG STAND UP!! feat. 松本孝弘」
80年代の香りがするファンキーなディスコサウンド。B’zの松本孝弘という完全に別の分野の人が「彼らしい音」のままで参加しているのは面白いが、やはりファンクである。松本の音だけがMステのオープニングで、それ以外がディスコなのだ。
確かにファンクやブラックミュージックは、ポップスの王道ではある。マイケル・ジャクソンをはじめとしたブラックミュージック界隈のポップ・スターたちが及ぼした影響は、それほど大きい。思えばとんねるずのマイケル・ジャクソン物真似が一世を風靡したこともある。木梨はその時代の経験から今回のファンク/ディスコ調を選択したのかもしれない。
しかしそれにしてもファンキーな楽曲、増えすぎじゃないか令和元年。
嵐『Turning Up』
クラップやシンフォニックなシンセの使い方に、80年代の香りがする。声をオートチューンで加工し、機械的な声へと変えていく手法は、往年のブラック・ミュージックから現代のtofubeatsまで、様々な時代に通じる手法ではあるが、やはりどこか懐かしさがある。
サカナクション「忘れられないの」
サカナクションはPVすらモロに80年代を再現したような楽曲「忘れられないの」を発表している。こういった80年代感の流入は2015年の「新宝島」のヒットから。ノリやすく、キラキラしていて、どこか親しみやすくて、日本が元気だったあの時代。ある世代以上の人は懐かしみを込めて、若者は目新しい音として、これらの楽曲を受け止めている。
米津玄師「感電」
公開から1時間50分で100万回再生されたというご機嫌なファンク・ナンバー。米津玄師もいつもの倍楽しげだ。邦楽ブラックミュージックを支えるスター・プレイヤーたちが参加していることでも知られるこの楽曲は、ついに邦楽の現在の頂の一つである米津玄師まで、80年代的なモノが伝わっていったことを意味するのではないだろうか。
なぜファンク/ブラックミュージックが流行っているのか
2019年に出てきたスターたちにも、ファンクやブラックミュージックの要素を持つ者は多い。
ブルーノ・マーズの美声とJ-POP的な聞きやすさを併せ持つOfficial髭男dism。作詞作曲のヴォーカル・藤原聡は、ブラックミュージックがルーツだという。歌い方にその影響が刻まれている。
ヴォーカル・井口以外の3人がブラック・ミュージックを好むというKing Gnuも、今年ブレイクしたバンドである(井口は邦楽が好きなため、ポップスに溶けこんだブラックミュージック間接的に聴いているという形)。ここでもオルタナティブ・ロックのサウンドが、ファンキーなカッティングと溶け合っている。
思えば去年ブレイクしたSuchmosや、紅白の楽曲にアレンジで参加したtofubeats、マルチに活躍する星野源など、ブラックミュージックをルーツとしたミュージシャンが近頃はヒットチャートの上位にいることが多い。ブラックミュージックに影響を受けたシティポップ界隈の人たちも、知名度を急激に上げていった数年だった。荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」が、どこかおかしみを持って世間に受容されたのも記憶に新しい。
今、時代は一周しつつあるのではないか。あの頃のブラックミュージックを、日本は取り戻しつつあるのでは。
おわりに
上述したように、ブラックミュージックは日本で流行っている。「恋するフォーチュンクッキー」以来、少しずつヒットチャートでも存在感を見せてきたこれらの楽曲が、いまやトップを占めつつある。
どこか沈みがちな今の日本において、80年代の上り調子だった世界と、その時代が作り上げたキラキラした世界に惹かれてしまう感覚はあるのではないか。だからこそ今、ブラックミュージックを多くのミュージシャンが取り入れ始めているのだろう。
これからリリースされる楽曲の中にも、かなりの割合でブラックミュージックが混じってくるはずだ。一つの時代の流れとして、注目してほしい。それでは。
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