ビザールギターとは
ビザールギターは”bizarre(=奇妙)”なギターという意味合いの言葉であり、いわゆる変形ギターの一ジャンルだ。GibsonやFenderなどがスタンダードとなるエレキギターを作り上げていったのだが、そういった高価なメインストリームのギターと差別化する形で60年代ごろに作られていったギターのことを指す。
ビザールギターの特徴は
- 価格は安いが、作りが荒いことが多い
- デザインで差別化している
- あくまスタンダードなシェイプがベースのものが多い
- 60年代っぽいレトロ感がある(スイッチがたくさんついているなど)
このあたりだ。フェンダーのジャズマスターの新品価格が1965年に$339(12万円)だったが、ビザールギターは2万円など安価な価格で販売されていた。ちなみにサラリーマンの平均年収は1965年で44万円である。物価指数が4.6倍になっているので、12万円が今でいうと55万円くらいの価値があることになるだろうか。ビザールギターが安いというより、王道のエレキギターが高すぎた。そのためジミ・ヘンドリックスやジェフ・ベック、スティーブ・ハウなど名だたるギタリストがアマチュア時代にはビザールギターを弾いていたという歴史がある。
代表的なビザールギターの一つTeisco Spectrum 5を紹介しよう。明らかにストラトキャスターなどのFenderのギターを原型にしていながら、おもちゃのようなスイッチがついていたり、ピックアップが独特だったり、ボディシェイプに宇宙を感じたり。ワクワク感とレトロさがいい。しかもこちら国産であり、「アヲイ音波研究所(後に社名をテスコに変更)」が作り上げ、世界を席巻したブランドなのである。
ビザールギターをどのように手に入れるか
ビザールギターを手に入れることは難しい、中古の楽器屋で規模が大きいところに行くと売っていたりするが、やはり珍しい部類ではある。またヤフオクなどで安価に出品されていることもあるが、大抵使い物にならないジャンク品である。
そのため、一部のクラフトマンの間では古びたビザールギターを復活させるという面白い取り組みが行われていたりする。こちらの動画でも、蓄音機などの音響機器の製造で知られるVictor社が1965年に生産したビザールギター(SG-12)を様々なアイデアを駆使して復活させていく様子が見られる。その様子はさながら医療ドラマであり、絶対にあきらめない気持ちを感じる。

リペアされたビザールギターは実際に購入することが出来る場合もあるので、気に入ったらサイトを覗いてみるのも面白いと思う。このSG-12はスイッチが昭和の扇風機についていたものと似てていい。
ビザールギターの使い手たち
それではここからは実際にビザールギターを使っている人を紹介したい。
長岡亮介(浮雲)-Songbird テレファントム
東京事変のギタリストであり、ペトロールズや様々なサポートでの活動でも知られる長岡亮介(浮雲)。彼の東京事変でのメインギターはボディシェイプが五角形の何とも奇妙なギターだ(1:36~あたりのギターソロでご確認ください)。このシェイプのギターはファントムと名付けられている。60年代にVOXが生産したビザールギターの一等星である。棺桶をモチーフにした独特のデザインは唯一無二だ。
長岡亮介が使用しているのはVOXのものではなく、千葉のギター工房・SongbirdがVoxのファントムをベースに手掛けたテレファントム(テレキャスター×ファントム)のモデルで、カラーはミントグリーン。彼はこのほかにも様々なビザールギター、変形ギターを所有しているが、ギターとしてファントムが一番カッコいいと過去に発言したことがある。当時のモデルをライブで使えないか検討したこともあるそうだが、ボディ材がラワン(いわゆるベニヤ板の材、安価)で作られていたので音が伸びず断念したらしい。
長岡亮介は星野源の後ろでもビザールギターを弾いている場合があり、まさにビザール界の星である。
過去にギターマガジンで浮雲特集があった際には、彼が所有する6本のファントムと共に表紙を飾った。長岡亮介はこのほかにもMicro-Frets SpacetoneやSilvertone 1417、Danelectro Pro-1なども所有し、実際に使用しているようだ。
坂本慎太郎-Supro Martinique
同じくビッグネームで、ゆらゆら帝国での活躍でも知られる坂本慎太郎のソロでは、時折ビザールギターが使われる。2ndアルバム『ナマで踊ろう』3rdアルバム『できれば愛を』では米国ビザール・ギターの代表的なブランドの一つであるSilvertoneのJupitarをメインギターに使っていた。作りが甘い部分があったが、音が好きだったので補修したとのこと。
ビザール・ギター好きとしても知られる坂本慎太郎は2022年に発表した「Like A Fable」で、ノブがピックアップの上に6つもついたビザールらしいSuproのMartiniqueというモデルのギターを使っている。
そもそもSuproはブルースらしい音の鳴るアンプを生み出していたアンプメーカーで、1968年に倒産し、2013年に復活したという劇的な経歴を持ったブランドだ。だが、Suproがギターを出していたことを知っている人はどれくらいいるだろうか。映像で確認してほしいが、「明らかに邪魔な場所」にノブが6つもついているのが良い。そしてエレキギターの定番であるマグネティックピックアップだけじゃなく、アコースティックギターによく使われるピエゾピックアップを搭載しているという意欲作。
アベフトシ-Burns Split Sonic
アベフトシが所有していた英国製ビザールギター、「Burns Split Sonic」です。チキン・ゾンビーズの録音中スタジオに置いてあったのを購入した物で、その見た目や立ち上がりの遅い音を気に入っていたとか。ほとんど録音用に使われ、弾いている姿を見れるのはPVや当て振り出演したTV番組のみです。 pic.twitter.com/HHtLZC3qhi
— 鼻毛 (@GainYourLife) January 26, 2021
THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのアベフトシがビザールギターを使っていたことはあまり知られていない。テレキャスターのイメージが強すぎるからだ。それに彼はライブでは基本的にビザールギターを使わず、一部の楽曲の録音で使っていた。
ブルージーなアベフトシのプレイが珍しい「COW 5」ではその全編で、彼が愛用していたバーンズ製のスプリット・ソニックの音を聴くことが出来る。
Char-KAWAI MS-170
Charといえばストラトキャスターのイメージかと思われるが、この映像ではVOXのティアドロップをコピーしたかのようなSplendor MS-170を使ってライブを行っている。60年代の日本製ビザールギターである。このSplendorは日本で初めてFenderを模したエレキギターを作ったメーカーだったということだ。
崎山蒼志-1957 Danelectro U-1
高校生の時点でフジロックやサマーソニックに出演し、大変な人気者になったシンガーソングライター・崎山蒼志。彼が19歳のときにTHE FIRST TAKEに出た映像では、1957年製のDanelectro U-1を使っている。
私の新楽器です。57年製、還暦のダンエレクトロです。非常に渋くて、かわいい… これからよろしくお願いします…! pic.twitter.com/BO2rgZfl4F
— 崎山蒼志 official (@soushiclub) October 15, 2018
再発もされているギターだが、彼が使っているのは57年当時のものである。独特な軽やかさが良い。崎山蒼志はダンエレクトロのギターをトリッキーなフレーズが弾きやすいと評価しており、主にソロ演奏の際に使用しているとのこと。
安部勇磨(never young beach)-guyatone LG-65T
国産ビザール・ギターの巨塔であるguyatoneをメインギターとして使っていたのが、never young beachのギターボーカル・安部勇磨である。1stアルバム『YASHINOKI HOUSE』はすべてguyatone LG-65T(恐らく1965年製)のもので録られている。MVにも登場するその独特な見た目、ビザールらしいスイッチは各ピックアップのオンオフだけでなく、トーンを「リズム⇔ソロ」で変えられるという。
いわく、ヤフオクで8,900円で買ったギターとのことだが、ベンチャーズ来日でエレキギターブームが巻き起こる1965年、サーフロックを意識したペケペケとした音は、『YASHINOKI HOUSE』の世界観に合っていたようだ。
Rei Teisco Del Rey K-4L
ギターをメチャクチャ弾きまくるシンガーソングライター Rei。彼女はアルバムごとにテーマとなるギターを決めて製作をしてきたのだが、4thアルバム『SEVEN』のテーマとなったのがビザールギターの王道であるTeisco(テスコ)製のdel rey k-4lだった。自分と同じ名前が入っているのもポイントだったとのこと。ピックアップが4つもついていて、カラフルなボタンが手が当たりそうな場所にある。燃える。個性的すぎるのではバッキングではあまり使わず、ポイントになる部分で使っているという。
大比良瑞希 GretschTK-300
大型フェスへの出演や七尾旅人/tofubeatsなどとのコラボでも知られるシンガーソングライター。彼女はGretschのTK-300という珍しいギターを使っている。60年代が中心のビザールよりは後発で1970年代後半あたりに生産されていたモデルだが、ビザールギターの特徴と共通する部分も多い。材はメイプルらしく、すごく安かったわけではないのかもしれないが、グレッチの得意とする箱モノ(ホワイトファルコンなどのフルアコ)よりはかなり工数が少なくなるので、廉価モデルといえるだろう。
なおこのギターが登場した1970年代はまさにGretschが大ピンチだったころで、1967年には経営不振でボールドウィンに買収され、その後も1973年に工場が火事に見舞われてしまい、打開策が打てないまま1980年にギターの製造が中止された。その混乱期の最中に生まれたTK-300はまさにレアなギターの一つと言えそうだ。ちなみにグレッチは80年代にブライアン・セッツァーが使用したことで高い品質が再評価され、製造を再開することになる。
この投稿をInstagramで見る
そんな珍しいギターをメインギターとして使っている大比良だが、彼女のスモーキーな声にメイプル材のカラッとした響きがすごくあっているように思う。ヘッドの形状とロゴの形がかなり思い切っていて、ビザールっぽい。ピックアップは本来搭載されているものから交換されているように見える。ダン・エレクトロもそうだがビザールギターはヘッドがすごく主張してくる。
Kotaro and The Bizarre Men
少し毛色の違う作品がこちら。加藤ひさしと古市コータローを中心に結成されたバンドで、なんとバンドメンバー全員がTeisco(テスコ)の楽器を使っている。ビザールギターだけでなく、ベースも、ドラムも、アンプも全てTeiscoである。
映画『エレキの若大将』寺内タケシ
ビザールギターとは90年代に名付けられた呼び方であり、60年代にはそのように呼ばれていなかった。急激に広まったエレキギターブームにより、新興メーカーが次々とギターを発表し、低価格戦略で世界を席巻したため、安価で奇妙なギターが大量に生まれたという背景がある。ブームの最盛期である1965年、ベンチャーズ来日の年に制作されたのが映画「エレキの若大将」である。
劇中では加山雄三がベンチャーズのノーキーからモズライトをプレゼントされるという時事ネタ的な展開や、寺内タケシがTeiscoのギターを演奏するシーンもある(※モズライトは高級なため、一般にはビザールギターとはされていない)。ちなみにエレキの神様と呼ばれた寺内タケシが当時のエレキ・ギターブームの仕掛け人ともいわれており、当時全米No.1だった人気番組のエド・サリバン・ショーに呼ばれたもののあまりに忙しすぎて渡米できなかったという逸話が残る。
当時のサーフ・ミュージックにおいて、ビザールギターがどれほど重要なポジションを占めていたかが分かる面白い映像になっている。なおシングルコイルのビザールギターブームは、ビートルズの来日と共に終演に向かっていく。まさにそのタイミングを切り取った映画なのである。
それにしてもギターが主体のインスト(歌なし)の音楽が席巻するなんて、すごい時代だ。2003年の60周年記念ライブでもみんなビザールギターを使っている。
おわりに
ビザールギターは変えのきかないサウンドとルックスを持っている。だが、品質に難があるためプロがそのまま使うことは少ない。例えばチューニングが狂いやすいとか、ピッチが合わないとか、そういった致命的なものも多い。安価にフリマサイトなどで出品されているものは、使えるようにするのにコストがかかることを覚悟しよう。
ビザールギターが生まれてきた背景、当時の世の中の様子。そして何十年もたってあえてビザールギターを使う理由。こういった情報については、ギターマガジンの次の号で詳しく書かれている。
なんと「ビザールギター」という言葉を世に広めたのは、ギターマガジンで編集長をしていた野口広之氏だったらしく、彼がビザールギターの歴史を解説しているページがすごく面白い。その他にも長岡亮介や安部勇磨なども、ビザールギターの魅力を答えている。
こちら雑誌版は2,660円だが、Kindle Unlimitedのプランに入っているため(※本記事執筆時点)、月額980円のプランで読むことが出来る(しかも通常は30日の無料体験がついている)。Kindle Unlimitedならこの他のギターマガジンや多くの雑誌、マンガなどを読むことが出来る。
なお過去に無料期間を利用している等で、無料体験ができない場合もあるので画面をよく見ながら確認してほしい。参考にしてもらえれば幸いです。それでは。
コメント