アーティスト崎山蒼志、その唯一無二の才能を育んだルーツとは?

音楽通から高い評価を受けている若きアーティスト崎山蒼志。彼は一体どんな音楽から影響を受けたのか?
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崎山蒼志とは

 

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まずはこの曲を聴いて欲しい。

16歳のシンガーソングライター崎山蒼志のデビュー曲『五月雨』には、その作詞作曲の異才ぶりが浮かび上がる。美しい視覚表現を伴う心情描写を、巧みな言葉使いで書き上げることで、自分の世界を作るセンス。アコースティック・ギター1本から生み出される多様な表現には、ティーンネイジャーらしからぬ技巧が宿る。彼が『五月雨』を書いたのは、13歳の頃だという。この早熟な才能は、2018年5月のAbemaTV「日村がゆく」への出演によって、世に放たれることとなる。

私は初めてこの動画を見たとき、彼の幼い風貌からは想像し難いほどにエモーショナルなパフォーマンスと楽曲の完成度の高さに圧倒され、ただただ深い溜め息をつくことしか出来なかった。

尚この時の彼のパフォーマンスは、川谷絵音(ゲスの極み乙女。)や、岸田繁(くるり)をはじめ、多くのミュージシャンや音楽通から高い評価を得るきっかけになった。

彼は崎山蒼志としての活動の他に、小学5年生の頃から地元の静岡で「KID’S A(キッズ  エー)」というバンドを組んでおり、ギターボーカルとして活動している。

ここでも彼の世界観が色鮮やかに表現されている。因みにこのバンドは「YAMAHA MUSIC BASH U-15部門」でグランプリを受賞するなどの活躍を見せている。

ここまでで彼の実力はある程度伝わったと思う。ここからは彼の持つ音楽的な才能やルーツを探っていこうと思う。

センス溢れるソングライティング

崎山蒼志の楽曲でまず注目したいのは歌詞である。文学的かつユニークな言葉選びや、詞のバランス感覚が非常に面白い。

聞き慣れない言葉の組み合わせによる現代詩的な表現と、平易な言葉を用いたストレートな表現がバランスよく配置されている。

詞を乗せる曲作りも秀逸である。

キャッチーなメロディーラインと、テンションコード(少し違和感のある響きのコード)を効果的に使用したギターが上手く調和している。曲の構成にしても転調を多用するなど聴くものを飽きさせないように工夫されており、作曲センスの高さが随所で垣間見える。

この作詞力・作曲力が彼の独自性の源である。

中毒性のある歌声

崎山蒼志の歌声は優等生的なものではないのだが、心に強く残り何とも言えない中毒性がある。その秘密は唯一無二の声と、オリジナリティが確立された歌唱法だと筆者は考える。

例えば少し鼻にかかり、音がこもったような独特の響きをもつ発声方法。このような歌い方をするアーティストは他にも存在するが、彼の場合は声を反響させる場所が違う。通常声は舌の奥から真ん中の辺りや、舌の裏側に滞留させて反響させることが多いのだが、彼は上顎の真ん中の辺りで声を反響させているように見受けられる。

母音の発音もユニークで、ほとんどの音に対して捨て仮名(「ぁ」などの小文字)を入れたような発音をする。ビブラートは細かくハッキリとしており、かけるタイミングも変幻自在である。時折出すスタッカート(伸ばさずスパッと切られた音)とビブラートを混ぜたような歌い方も印象的である。

彼の発声方法と母音の発音により楽曲が空間的な奥行きを持ち、ビブラートは楽曲に豊かな表情を与える。この歌唱法と声が彼の独自性を確固たるものにしている。

表現力の高い演奏

崎山蒼志の演奏力についても触れてみたい。

彼の演奏の魅力は、ギターの弦1本1本の音が認識できそうなほどに輪郭がハッキリとした音色と、カッティング(休符などを織り交ぜ歯切れのよいリズムを生み出す奏法)などを多用して生み出すパーカッシブで強靭なグルーヴである。

その秘密は彼の超人的なリズム感と、右手でのピッキング(弦を弾くこと)にある。

彼の右手首は動きが柔らかい上に力強い。手首が柔らかいということは、その分素早く動くことに繋がるので表現できるリズムの幅が広がる。そこに彼の持つリズム感が加わり強靭なグルーヴを生み出している。手首の力強さは強いピッキングに繋がり、それが輪郭のハッキリとした音色を生み出す。この右手の動きが彼の表現力の高さの源である。

彼に影響を与えた音楽

音楽好きの両親の元に生まれ、幼い頃から多種多様な音楽を聴いて育った崎山蒼志がギターを始めたきっかけは、彼の母が聴いていたthe GazettEというビジュアル系バンドを見たことである。

この時にギターという楽器に興味を持ち、近所のギター教室に通い始めると同時に彼はあらゆるビジュアル系バンドの楽曲を聴き込み始めた。彼が書く詞の現代詩的要素はこうして育まれたものと考えられる。

その後も多くの音楽を聞き込み、自身の血肉としてきた。インタビューいわく、彼の憧れのアーティストは向井秀徳や、坂本慎太郎らしい。

そう考えると独自性を持ったソングライティングや、歯切れの良いギタープレイや、グルーヴ感といったところで影響を受けているように感じる。ただしそれもほんの一部の要素であり、彼の中にはこれまで聴いてきたであろう音楽のエッセンスが取り込まれている。

例えばスガシカオの『アシンメトリー』などにみられる、人を少し不安にさせるようなダークかつオシャレで複雑なコード感は、崎山蒼志の『旅の中で』など多くの楽曲に影響を与えていると言える。

2000年代後半にポストロックブームを引き起こした超絶技巧3ピースバンド、凛として時雨も崎山蒼志に影響を与えている。代表曲『テレキャスターの真実』の弾くというよりは切り刻むようなカッティングと、それによって生み出される硬質なグルーヴ。このギタープレイが上述した『五月雨』でのパーカッシブなアコギのプレイングへと影響していることを、崎山は明かしている。

フジファブリックの『茜色の夕日』と崎山蒼志の『夏至』を聴き比べてみると、力の抜けたような憂いを含んだ歌声に類似したものを感じる。それは少し鼻に掛かりこもったような声や、母音の発音が共通しているからだと言え、歌い方の部分においてフジファブリックのボーカル志村正彦から影響を受けている可能性がある。

竹原ピストルの『Forever Young』と崎山蒼志の『国』は、力強いピッキングからなる音の輪郭がハッキリとしたギターや耳に残るリフ感が似ており、ソングライティングや楽曲の表現において影響を受けていると考えられる。

その他に清春、BLANKEY JET CITY、クリープハイプ、SEKAI NO OWARI、レディオヘッド、アンディ・シャウフなどあらゆるジャンルの音楽を聴いてきたという彼。その経験がソングライティングや/ギタープレイ/歌い方において多くの影響を与えたに違いない。

まとめ

あらゆるメディアで天才と言われている崎山蒼志。確かに彼のソングライティングや歌声やギタープレイは非常にオリジナリティに溢れ、ハイレベルである。ただそれは単に天才ということだけではなく、あらゆるアーティストの良い部分を自分のオリジナリティになるまで咀嚼するという努力が生んだ結果であると筆者は考える。

例えば彼がファンだと公言する中村文則は、人間のネガティブな内面を目が眩むほどリアルに描写する作風が魅力的な作家である。崎山蒼志は『夏至』など様々な楽曲の作詞において、中村文則の魅力を自身の視覚表現や心理描写のフィルターを通してオリジナルなものにまで昇華している。

崎山蒼志はきのこ帝国を聴き、そのルーツを辿ってゆらゆら帝国に行き着いたという。そのようにして気になったアーティストのルーツや関連を辿って様々な音楽に出会っていく彼は、これからも数多くのアーティストや楽曲に出会い、咀嚼して吸収していくだろう。そんな彼の進化はまだまだ続いていく。

10年後20年後、彼がどんな作品を生み出すのか。非常に楽しみである。

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