アニソンにお洒落なシティポップやソウルが採用されていた時代

90年代を振り返る、お洒落アニソン特集
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アニソンにお洒落な曲が使われる

アニメソングは様々な玄人音楽プロデューサー・作曲家が、自分の腕を見せる場所であった。時にはキャッチーなメロディーでアニメを広め、時にはアニメの世界観を深化させる。70年代、『ルパン三世』のオープニングテーマは、ジャズやソウルなどを応用してお洒落で大人な雰囲気をアニメに与えた。ブラックミュージック(=黒人音楽)がアニメソングやBGMに持ち込まれたのだ。

そして90年代、久保田利伸がスターとして名を馳せ、世紀末に宇多田ヒカルが現れた日本ブラックミュージックの隆盛期に、アニソンにも数多くの黒い要素が持ち込まれた。今回は90年代を振り返る、お洒落アニソン特集をお送りしたい。

カウボーイ・ビバップ「Tank!」

まずは名作曲家・菅野よう子が世に送り出した、インストゥルメンタルのラテンジャズから。明らかに『ルパン三世』を踏まえていて、管楽器が多用されるジャズ・ビックバンドの形式で演奏された。なお演奏者としてクレジットされるシートベルツは、菅野自身がキーボード・ピアノをつとめ、サックスに本田雅人(ex.T-SQUARE)ベースに渡辺等など、凄腕ミュージシャンを集めたバンドだった。

サウンドトラックも菅野が担当し、日本ゴールドディスク大賞アニメアルバム部門を受賞するほどの気合の入れようで、それほどカウボーイ・ビバップは音楽が重要な作品だったということだろう(ビバップもジャズのジャンル名から取られている)。このアニメが持つスタイリッシュでお洒落な雰囲気において、音楽の功績は大きい。

美味しんぼ「Dang Dang 気になる」

1989年から1992年まで使われた中村由真のシングル曲。グルメをテーマにしたアニメだったために、キャッチーさの中にムーディーな雰囲気がある。ドラムやシンセの音は80年代後半~90年代前半らしさがあって、時代を感じる仕上がりだ。

らんま1/2「フレンズ」

1990年にらんま1/2熱闘編のエンディングテーマとして使われた楽曲。歌手としてクレジットされるYAWMINは、新世紀エヴァンゲリオンのOP曲「残酷な天使のテーゼ」で知られる高橋洋子の変名だ。時代を感じるシンセベースに、ギターのカッティングなど、どこか90年代のアニソンには共通の型があるように感じられる。サビのメロディーの耳心地の良さや、エヴァとは明らかに違う高橋洋子の優しい歌声を聴いていただきたい。

幽遊白書「微笑みの爆弾」

1992年に始まったテレビアニメ『幽遊白書』のオープニング曲。霊能力者が妖怪とバトルする作品で、少年ジャンプに連載されたものということもあり、ここまでソウルやR&Bに寄った楽曲が使われていることは、不思議だった。しかし進行とともに社会に蔓延る悪や不条理など、大人の世界へと少年を誘う作品になっており、そこまで見据えた上での選曲だったことが伺われる。

歌っている馬渡松子は作編曲も行っているため、この時代のアニソンとしては珍しくシンガーソングライターが作った曲が、プロデューサーの手が加えられずそのまま使われていることになる。馬渡へのスタッフへの信頼が厚かったのだろうか、5つあるエンディングテーマの内、4つに彼女の曲が使われた。

幽遊白書「さよならbyebye」

馬渡のエンディングテーマの中で一つ紹介するなら、93年のこの曲。一貫したR&Bのノリもさることながらサビで一度落とすあたりに、歌謡曲のムーディーな雰囲気も持ち込まれていて面白い。メロディーの譜割り(=リズム)も独特で、かなりの意欲作だろう。

幽遊白書「アンバランスなKissをして」

なお一度だけ馬渡松子ではなくシンガーソングライター高橋ひろの楽曲がエンディングテーマに使われているが、こちらも明らかにブラックミュージックの影響下にあったため、雰囲気が変わることはなかった。特に間奏のムーディーさは凄まじく、いったいどのような注文が付けられて作曲されたのか気になるところだ。サビが盛り上がらないところも「さよならbyebye」に近い。

忍空「輝きは君の中に」

スタジオぴえろが幽遊白書終了後に同じ枠で始めたのが、アニメ『忍空』だった。こちらも週刊少年ジャンプのヒット作で、一部のBGMは幽遊白書のものがそのまま使われていたり、どこか継続している雰囲気があった。そのオープニングテーマがこの「輝きは君の中に」なのだが、歌い方や曲調、全てが馬渡松子を彷彿とさせる。これが時代のためだったのか、スタジオぴえろからの注文だったのかは分からないが、お洒落で憂いを帯びた楽曲は人気を博し、鈴木の代表曲となった。

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ちびまる子ちゃん「ハミングがきこえる」

少しこれまでとは違った路線のアニソンを紹介しよう。1996年に発表された「ハミングがきこえる」で聴こえるのは明らかにジャズバンドを意識した、ブラシで叩くドラムにウォーキングベース。しかしそこに乗せられているのが高らかに歌い上げるソウルフルなヴォーカルではなく、カヒミ・カリィの囁き声なのが面白い。作曲はフリッパーズ・ギターのメンバーとして渋谷系ムーヴメントを主導した小山田圭吾。日本に黒人音楽を流行らせてきた彼らしい、非常に面白い組み合わせの楽曲になっている。

史上初の腹から声を出さないアニソンではないか。小山田がここまで自由にやれたのは、さくらももこがフリッパーズ・ギターのファンだったことと無関係ではなさそうだ。なおこの次のオープニング曲は「おどるポンポコリン」であり、長きに渡る治世を築きあげることになるため、あまり今のちびまる子ちゃんには登場しない曲となってしまった。

ちびまる子ちゃん「おどるポンポコリン」

お洒落ではないので余談になってしまうが、「おどるポンポコリン」もソウルグループにありそうな女性コーラスが付けられていたり、ギターコーラスがブルース奏者の近藤房之助だったりで、ブラックミュージックの要素が取り入れられた楽曲になっている。「タッタタラリラ」という近藤の声の持つ、ブルースの渋みを感じてほしい。

「おどるポンポコリン」だけでは近藤がブルース畑の人間であることが伝わらないと思うので、参考動画を掲載しておく。声もギターも素晴らしい。なお90年代を代表するアニソンとして、今も使われる付ける「おどるポンポコリン」だが、メインヴォーカルの坪倉は著作報酬を買い取りに、近藤は印税に指定していたために、現在も大きな収入格差があるそうだ。まさにしくじり先生である。

勝負師伝説 哲也「REACH OUT」

これはギリギリ2000年の曲。麻雀がテーマなので、当然大人向けの曲を持ってくることになるのだが、そこで抜擢されたのが和田アキ子なのだ。意外とダンスミュージックのビートなので聴きやすい

おわりに

必殺技を叫ぶ時代から、お洒落ブラックミュージックの時代へ、アニソンは移り変わっていった。ターニングポイントは『ルパン三世』だろうけど、90年代に多くのミュージシャンが影響を与え合って作り上げてきた大人な雰囲気のアニソン群も、見過ごせない存在だろう。

今でもアニソンの枠を超えて語られることないこれらの楽曲だが、僕らの耳はアニソンで育っていったのかもしれない。2018年現在、ロックバンドすらもブラックミュージックの要素を取り入れるほど、黒人音楽が日本には根付いてきた。そこに90年代のブラックミュージックの隆盛と、そしてその枠の中で子供たちの耳を刺激していたアニソンの伝統が成したものは大きい。そう思ったからこそ、この記事でみなさんに再発見していただきたかったのだ。

2022年にはSexy Zoneが、「あの頃のアニメの雰囲気」で新曲を発表した。アニメにシティポップが使われていた頃の雰囲気が、現在のシティポップ再評価の流れとリンクし、メジャーシーンにおいてもその影響が現れ始めている。お洒落なアニソンは今後も一つのトレンドとなっていくだろう。

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