BUMP OF CHICKENのルーツ
どんな音楽にもルーツとなった曲がある。BUMP OF CHICKENにも当然あるはずだ。インタビューの発言や、実際に曲を聴いて見つけた類似点等から、彼らはこの曲に影響を受けている!と勝手に予想する。
The Pogues「Fairytale Of New York」
曲が進むごとに代わっていく風景、強まっていく祝祭感。その幸せな雰囲気と反して、クリスマスイブの日を回想する歌詞に漂うのは、アル中&ヤク中カップルの虚無感だ。「Fairytale Of New York(ニューヨークのおとぎ話)」というタイトル通り、詞がストーリー仕立てになっている。まさにBUMP OF CHICKENのルーツと言えるバンドだろう。
The Pogues(ザ・ポーグス)はロンドンで結成された、アイリッシュ・パンクバンド。アイルランドの伝統的な旋律と、パンクロックを融合させた音楽性で、1982年に結成された。この「Fairytale Of New York」はヒットし、イギリスで定番のクリスマスソングとなった。
とあるインタビューでは藤原基央[Gt./Vo.]が紹介し、残りの3人が食いついたバンドとして紹介されている。
BUMP OF CHICKEN「Merry Christmas」
このBUMP OF CHICKENのクリスマスソングでは、最初の間奏からアイルランドの伝統的な旋律を参考に作られたであろうフレーズが入ってくる。The Pogues的な手法で、先ほどの曲の1:25~あたりと聴き比べてみてほしい。
「Fairytale Of New York」のラスト。カップルの和解と未来を予言する鐘が鳴り響く、今日はイブ、クリスマスにはきっといいことが待っている…。虚無に希望が生まれていく流れは、「Merry Christmas」の男の姿に繋がっていく。何にも良いことが無くても、誰かの幸せを願える日なのだ。このアイルランド風のクリスマスソングには、明らかにThe Poguesが宿っているのだ。
BUMPの音楽にこういった民族的なフレーズが登場するのは、2004年『ユグドラシル』収録の「車輪の唄」あたりからだろう。それまでの彼らの音楽に通底していたのはパンク・ロックだった。彼らが影響を受けたパンクが…
Green Day「American Idiot」
アメリカの大御所パンクバンド・Green Day(グリーン・デイ)を代表する曲が、この「American Idiot」だ。彼らの音楽性はポップ・パンクと呼ばれ、パンクロックよりもメロディアスで聴きやすいことが特徴的だ。
シンプルなコード進行に、パワーコード(※)、メロディアスな歌メロという初期のBUMP OF CHICKENに見られる特徴が、Green Dayの音楽には表れている。
BUMP OF CHICKEN「sailing day」
一番初めの”ジャジャ ジャジャ ジャジャ ジャジャジャー”みたいなところだったり、Aメロやサビに見られるメロディアスな歌メロや重めでリズム重視の伴奏だったりにポップ・パンクの、ひいてはGreen Dayの影が見える。ただしBUMPはパワーコードを通り越して、よりシンプルなオクターブ奏法(高いドと低いド、1オクターブ違う音を重ねて鳴らす)を使っていることが多い。
BUMPは4人ともGreen Dayが好きで、高1の時にはコピー演奏をしていたそう。この試みから、パワーコードの使い方を覚えていったというから、重要なルーツと言えるだろう。
YouTubeの公式チャンネルで一番初期に近い動画が「sailing day」だったので掲載したが、この曲は「車輪の唄」なども入ってくる3rd Album『ユグドラシル』の曲だ。このGreen Dayあたりのポップ・パンクの気配を感じたいなら、1st Album収録の『アルエ』という曲を聴こう。
Thin Lizzy 「The Boys Are Back In Town」
アイルランドの英雄と称されるThin Lizzy(シン・リジィ)は、上述のThe Poguesよりも早く、1969年に結成され、アイリッシュ音楽とハードロックの融合を志したバンドだ。
このバンドに関してはインタビューなどでも触れられていないが、BUMP OF CHICKENのルーツの一つではないかと考えている。アイリッシュ×ロックのレジェンドを、あの藤原基央が見落とすわけがない。
聴いてほしいのは1:06あたりから始まる間奏だ。このThin Lizzyはツインリードのバンドとして認知されている。つまりメロディやソロを左右2本のギターで弾き、ハモる関係になっているのだ。
BUMP OF CHICKEN「天体観測」
パンクが基礎にあるBUMP OF CHICKENに、なぜ天体観測のイントロのような2本以上のギターで構成されるリフ(何度も繰り返されるギターのメロディー)が入ってくるのか。ここにThin Lizzyの存在を感じる。上述の「sailing day」のリフもハモリになっていて、BUMP OF CHICKENらしい音なのだが、これはThin Lizzyのような70年代ハードロックの影響なのだろう。
藤原 高校に入ったら周りのみんながすごく洋楽に詳しくて、小学生のときに「髪の派手なお兄ちゃんたちの音楽」としか認識してなかったハードロックをよく聴くようになるんですね。
引用:音楽ナタリー
BUMP OF CHICKENの4人にとって共通の話題となるバンドが、アメリカを代表するハードロックバンド・Aerosmith(エアロスミス)だったそうだ。彼らの中にはハードロックの血も息づいている。「続・くだらない歌」のくさいツインリードのメロディーは、ハードロックを通っていないと出てこなかっただろう。
Pride & Glory「Machine Gun Man」
Pride & Glory(プライド・アンド・グローリー)は、ヘヴィメタルバンド・Ozzy Osbourne(オジー・オズボーン)での活躍で知られるZakk Wylde(ザック・ワイルド)が結成したバンド。カントリーの影響が強いサザンロックを、ヘヴィメタルの重いサウンドで演奏していた。80年代のギラギラした音と古き良き60年代の雰囲気が融合する音楽だ。藤原基央(Gt./Vo.)はこのバンドを、BUMP OF CHICKENの最も重要なルーツとして挙げた。
藤原[…]一番大きかったのがザック・ワイルドが組んだPride & Gloryっていうバンドですね。彼が「自分のやりたいのはサザンロックっていうジャンルだ」と明言してくれたので、「ああ、俺が好きなのはサザンロックだったんだ」って思って、そこを掘っていったんです。
引用:音楽ナタリー
そしてここが、BUMP OF CHICKENがカントリー・ミュージックとロックの融合を実践していくターニングポイントになった。
The Allman Brothers Band「Ramblin’ Man」
そして藤原はPride & Gloryからサザンロックの歴史を遡り、よりオーセンティックで土臭い音が特徴的なThe Allman Brothers Band(ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド)に出会う。
BUMPのリリースには「才能人応援歌」のような尖った歌唱の曲もあるが、「車輪の唄」のようにおおらかで生活感のある曲も多い。それはアメリカ南部に今も息づく生活者の音楽であるカントリーと、多くの人の目に届くロックというジャンルの融合を果たした、サザンロックが、彼らの根本にあるからだろう。
そしてカントリーのルーツの一つには、上述のアイリッシュ音楽がある。彼らのルーツは飛び散った点ではなく、大きくそして歴史のある一本の線なのだ。
BUMP OF CHICKEN「車輪の唄」
(※おそらく再生できないので動画のリンクからYouTubeに飛んでください)
カントリーやアイリッシュによく登場する弦楽器・マンドリンが用いられている曲。ドラムもスティックではなくブラシ(刷毛のような形で、繊細なコントロールが出来る)が使われていて、明らかにカントリー・ミュージックに傾倒していることがわかる。
アメリカ南部の骨太な男たちが演る、不器用なバラード。それが藤原基央の理想の音楽であり、Pride & Gloryはその入り口となり、The Allman Brothers Bandはその教師となった。
Zakk Wylde「solo」
そしてギター少年・藤原基央にとって最大のヒーローが、Pride & Gloryのリーダー、Zakk Wyldeだった。Ozzy Osbourneのギタリストということもあり、ギラギラしたヘヴィメタル界のギタリストとして認知されている。
しかしカントリー・ミュージックとヘヴィメタルの融合を果たしただけあって、アコースティックも一級品である。このように幅広い音楽をカバーする超絶ギタリストなのだ。
藤原 ザック・ワイルドも僕のヒーローなんです。僕のギターのスタイルが今のスタイルに落ち着いているのも、彼のおかげかもしれないですね。
引用:音楽ナタリー
藤原は彼の弾き方が自分のギタープレイの基礎になっていると語っている。
藤原基央とギターソロ
藤原基央と言えばギターヴォーカルであり、超絶ギタリストのZakk Wyldeは一見結びつかないかもしれない。しかしBUMP OF CHICKENインディーズ時代には、ギターソロはほぼ全て彼が弾いていたそうだ。
インディーズレーベルからリリースされた2nd Album「THE LIVING DEAD」の歌詞カードを見てみると、すべての曲のリードギターとして藤原の名前がクレジットされている。歌いながらソロも弾きまくるギタリストだった時代があったのだ。
そして「天体観測」のように多重に音が重ねられたリフを、ヴォーカルである藤原が考え出せるのも、彼がハードロックやヘヴィメタルを、ひいてはZakk Wyldeをリスペクトしているからだろう。
なぜリードギターを担当していたのか
気になっている人もいるかもしれないので付け加えておく。邦ロックの多くのバンドでは作曲者は伴奏の流れであるコード進行と歌うメロディを考えるだけで、アレンジはバンド全体でやることが多い。つまりリフやソロをリードギター担当が考えることが多いのだ。しかしBUMP OF CHICKENはこの時期、主に藤原が考えていた。
その理由は、リードギターであった増川の技量が至らなかったためと言われている。だからこそ『THE LIVING DEAD』でのリードギターは全て藤原が録音しているのだ。このストイックさやプロ意識の高まりは4th Album『ユグドラシル』で明らかになった。同アルバム収録の「embrace」「同じドアをくぐれたら」では、なんと増川がレコーディングに不参加、いよいよ脱退もささやかれた。
しかし思い悩む彼を励ますために書かれたのが「fire sign」という曲だったと言われている。この曲を受け取り、彼はプロになる覚悟を決めたそうだ。今では増川のギターの腕は向上し、ライブ版のソロのアレンジも担当するようになった。BUMP OF CHICKENの最大の魅力は、ファンと共に成長してきたことではないかと思う。
The Beatles「Twist & Shout」
音楽の教科書にまで乗る伝説のバンド、The Beatles(ザ・ビートルズ)をルーツに掲げるバンドは多い。Green Dayがリスペクトを公言しているが、 BUMPも少なからず影響を受けている。彼らがBeatlesに出会ったのは中学生の頃、有名な赤盤・青盤と呼ばれるベストアルバムに入っている曲を、4人でほとんどコピーしたそうだ。合わせると50曲以上あるので、かなりのものである。
青盤に入っている「Back in the U.S.S.R.」や、BUMPの前身バンドが文化祭で披露したという話が残っているこの「Twist & Shout」を聴いてほしい。この曲は10年以上前のラジオでもBUMP OF CHICKENが演奏を披露している。今のBUMPにThe Beatlesの影響を見つけるのは困難だが、このバンドの原点となった時期なので、重要なルーツと言えるだろう。
(なおBeatles版「Twist & Shout」はカバーであり、The Isley Brothersがオリジナル。)
BUMPとシタール
インドの楽器であったシタールを西洋音楽の世界に登場させたのが、The Beatlesの「Norwegian Wood」、邦題でいうところの「ノルウェイの森」だ。そして藤原基央はこの曲でシタールを弾いているジョージ・ハリスンのものと、同じエレクトリック・シタールを使って、映画『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の主題歌としてヒット曲となった「花の名」を録音している。
BUMP OF CHICKENの2つの軸
直井 僕らは今までのバンドの歴史の中でも、アイリッシュとかブルーグラスとかカントリーとかそういうジャンルの音楽と、ポップスやロックが融合したような曲をたくさん作ってきてると思うんです。
引用:音楽ナタリー
と直井由文[Ba.]が語っているように、彼らの根幹にあるのは2つの軸だ。
そして彼らの先輩ともいうべき、サザンロック(カントリー×ロック)やアイリッシュパンク(アイルランド音楽×パンクロック)も参考にしているのだろう。
ここへ曲毎に加えられるスパイスとして、別のルーツが入ってくる。「Butterfly」のようにEDMの影響を感じる曲もあれば、「モーターサイクル」「三ツ星カルテット」のようにどこから生まれたのかもわからない不思議なリズムや音の曲もある。
EDMなんていくらでもあるわけで、これらのルーツを見極めるのは難しい。しかし結局はファンの戯言みたいなことなので、活発に議論していくことがBUMPの活動を盛り上げていくことに繋がるんじゃないだろうか。
おわりに
最後に一応書いておくが、彼らは洋楽ばかり聞いているわけじゃない。
BUMPは20代の頃のインタビューで、NUMBER GIRLやSyrup16gが好きだと言っているし、直井は昔のアニソンのプレイリストを作っては聴き続けているとか。この洋学偏重はいわば彼らの選択の結果であり、その候補には邦楽のバンドもあっただろう。
しかし彼らは多くのロック・ミュージシャンがあまり参照しないバンドを選んできた。今でこそSEKAI NO OWARIなどのバンドもアイリッシュ音楽を取り入れたりしているが、BUMPのように軸に据えてやっていて、しかも知名度も高いバンドというのは無いだろう。
自分たちの拠り所としてアメリカ南部を選んだからこそ、彼らは独自の方向へと突き進み、こうして多くの人に認知されるバンドとなった。そしてその独自性が多くのフォロワーを生み、一つのシーンを作っているのだ。
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