みんなちがって、みんないい。
R-指定は11人のラッパーに扮して、それぞれのスタイルを「リスペクト」したリレー形式で楽曲を成立させている。ライブでも女声パートを演じるという気合の入りっぷりや、これだけのスタイルをマネできるR-指定のテクニックが素晴らしい。やはり気になるのは、彼がここで表現したラッパーには元ネタがあるのではないかということだ。順番に見ていこう。
1人目:高校生ラップ選手権の参加者たち
明らかに駆け出しであることを意識したリリック。フリースタイルラップが世間に知られるきっかけとなった高校生ラップ選手権の参加者たちを真似ていると思われる。
- 途中でフロウのテンポが速くなるスタイルは高校生ラップ選手権でよく見られた
- 「完全勝利」というワードは、出場者が定期的に使っていた
- 高校生ラップ選手権参加者は「体言止め」でラップをすることが多いと言われている
- R-指定がラップしている背景が高校
R-指定が若干声色を高めにしてラップしているので、やや声色高めで、早口であることを揶揄されていた言xTHEANSERのスタイルが思い出される(動画向かって左)。
2人目:中堅バトルMC
1人目の若手をディスる形で登場するのが、それより少し上の世代のバトルMC。このスタイルのラッパーって一定数いるので、どれとかは言えないところがあるが、恐らくこういう先輩がいて1人目の若きラッパーたちが「教育」されていくのだろう。
3人目:地元系ベテランラッパー
その2人目に同調して出てくるのが、更にベテランでライブハウスを牛耳り、ある種煙たがられていると思われるベテランのラッパー。関西で活動していたR-指定らしく、先輩ラッパーがゴリゴリの関西弁である。関西で若手として活動していた当時、嫌いな先輩でもいたんじゃないだろうか。
4人目:SALU
3人目のベテランラッパーをディスって登場したのは、明らかにSALUである。R-指定の声マネがうますぎる。バトルシーンではなく、音源でHIPHOP界隈を沸かしてきた彼のイメージが落とし込まれたリリックになっている。ちなみにSALUはUSのアーティストのフロウに影響を受けているとインタビューでも語っている。
5人目:jinmenusagi
4人目を独特なフロウでディスる、USシーンの最新の流行を追っているラッパー。こちらについて元ネタは諸説あるが、Jinmenusagiではないかと思われる。
- USのラップを日本語に落とし込むスタイル
- ネットを介して楽曲を発表するスタイルは、ニコニコ動画出身のJinmenusagiを思わせる
- 「クリクリ動画」なるニコニコ動画らしきものが登場する
- ラッパーMoment Joonの楽曲へのアンサーソングとして、「#FightClubJP Answer」という曲をリリースし、HIPHOPメディアAmebreakを名指しでdis。後にAmebreakに取り上げられ知名度を上げた。(現在はトラックは削除され、聴くことが出来ない。)
このあたりをふまえて聴いてみると、かなり具体的にjinmenusagiを思わせるリリックになっていることが分かるのではないだろうか。
6人目:エンジョイ系フィーメールラッパー
突然の女性ラッパー。エンジョイ系のためラップバトルへの参加は無く、当然5人目へのアンサーはない自分語り。こちらについても諸説あるが、フロウはDJみそしるとMCごはんに似ている。「みんなちがって、みんないい。」はそれぞれのラッパーへのリスペクトが込められていてすごい(このリリックシンプルにディスってないか)。
7人目:メンヘラ系フィーメールラッパー
エンジョイ系と対比されるのがメンヘラ系の女性ラッパー。具体的に誰かをあげるのは難しいが、そういったジャンルで活躍しているラッパーは何人かいるので、それらを足し上げていくとこんなイメージになるのではないか。
8人目:FUNKY MONKEY BABYS
根拠を出す必要もなく8人目は俺たちのファンモン。クリーピーナッツベイビーズって書いてるし。ちなみにヒット曲「告白」は全く同じフレーズから始まる。FUNKY MONKEY BABYSのCDジャケットは絶対に誰かの顔になのだが、それもコピーしている。絶妙に不協和音なのがメチャクチャ馬鹿にしてて良い。
「桜」のジャケットは最近見かけないあの人。
9人目:呂布カルマ
バトルMC界隈では知らぬ人のいない呂布カルマ。彼が9人目にパロディされていると言われている。
- ほとんど韻を踏まず、リリックの内容を重視するスタイル
- 相手を見下すような言葉選び
- 呂布カルマがラップバトルに出ると、多くのラッパーが彼を「宗教家」だとディスる。その強固な世界観とファンの熱量をディスっている。
よく宗教と言われる呂布カルマだが、MVでは明らかにオウム真理教の麻原をオマージュしている。そしてその呂布カルマの姿を借りて8人目をボコボコにしているのが面白い。
10人目:MC松島
10人目はMC松島。声とフロウがメチャクチャ似てるところが流石R-指定。「MC松永」としてTwitterをしている描写があるが、MC松島はTwitterを1日に10回以上更新することもある。インテリ系のツイートが多いような印象だ。
最近はYouTubeに動画を頻繁にアップし、政治家などの色々なところに噛みつき、解説YouTuber化しつつある。R-指定はそんな一面を揶揄していたのでは。
11人目:KOHH
最後の一人はKOHH。フランク・オーシャンやマライア・キャリーのアルバムに参加するなど、世界から認められるラッパーである彼を、R-指定は「カリスマ」だと言っている。語尾が上がるフロウはKOHHを思わせるし、なんといっても「めんどくせー」とかいかにも彼が言いそうだ。
そんなカリスマの姿を借りて、ここまでの11人の旅路を締めてもらうことにしたのだろう。投げやりだが、他人と自分を比べることをしなさそうなKOHHだからこそ、これほど癖の強い楽曲を締められるのだ。
元ネタは存在しない
R-指定は公式に、それぞれに明確な元ネタは存在しないと明言している。それぞれに複数のモデルがいるので、特定した個人を指しているわけではないと言っているのだ。そんなわけあるかという感じだが。
ヒップホップ流のディスとしてだけではなく、一種のエンターテイメントとしてこれだけの楽曲を作れるところに、Creepy Nutsのすごさが表れている。これだけつぎはぎのビートを作れるのもすごい才能だし、これをライブで完全再現して演じているところなど、驚愕としか言いようがない。
ライブで客をぶち上げる楽曲として機能するところに、この曲の持つエンタテイメント性を感じる。ちなみにライブでファンモンのところを演じる時は、ファンキー加藤よろしくこぶしを掲げて歌い盛り上がる。
ビートメイクとラップ、達人たちの遊びとして、今後も愛される一曲となりつづけるだろう。それでは。
8月にNEW miniALBUM『かつて天才だった俺たちへ』リリース
ティーザーを聴いていただければ伝わると思うのだが、Creepy Nutsは8/26にリリースしたミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』で新しい表現を模索している。菅田将暉とコラボしたTrack.4 THE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者」や新曲であるTrack.5「サントラ」のようなポップなスタイルから、Track.2「耳無し芳一Style」のゴリゴリの新しいHIPHOPのスタイルまで。
初回限定版として2種類の特典が付いた版が発売されている。
ライブDVDが付属する初回限定版。2019年12月に、新木場スタジオコーストにて行われた ワンマンツアー2019「よふかしのうた」の模様をダイジェスト収録。
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